最新号のTRANSIT52号では「トーキョー・オーバービュー」と題し、14ページにわたって空から見た東京を特集している。ヘリコプターに乗り撮影したのは、写真家の佐藤健寿さん。鳥の目で見た東京の印象や撮影の裏話をインタビューした。
Photo : Kenji Sato
TRANSITの東京特集では、佐藤健寿さんにヘリコプターに乗ってもらい東京を空撮してもらいました。どんなルートで東京上空を飛行しましたか?
佐藤健寿(以下、佐藤):お台場のヘリポートを出発し、東側の湾岸部からスカイツリーのある隅田川周辺へ行き、ぐるっと回って皇居や霞ヶ関周辺を通過して新宿・渋谷方面へ向かったあと、ひたすら多摩のほうへ移動しました。
ちょうど中央線と京王線の間を進むようにして西へ向かい、最終的には相模湖が見えるところまで行きましたね。
どのくらいの時間で東から西まで移動したんですか?
佐藤:ヘリで移動するとあっという間で、移動そのものにかかった時間は多分30分くらい。撮影しながらだったので、合計2時間くらいの飛行でした。私たちはふだん電車や車に乗って、街と街との間隔を把握していると思いますが、ヘリだとその距離感の縮尺が狂ってしまいます。
たとえば、地上で渋谷にいても、新宿のビルは見えないですよね。渋谷から新宿は山手線3駅で10分弱、という感じでしか距離感を捉えられないのですが、空から見るとめちゃくちゃ近い。たとえば府中を飛んでいたとしても新宿も渋谷も見えるので、自分がどこを飛んでいるかというのが、意外に分からないものなんですよ。「今どこですか?」とパイロットに何度も聞きました。
鳥の目で見た東京は、地上で見る東京と比べてどう違いましたか?
佐藤:TRANSITの撮影などで、海外に行って空撮をしたことはありますが、東京は今回が初めてでした。上空から見た東京はきれいだなぁという気持ちもあったんですが、想像以上に恐ろしい密度でした。
地表を何かが埋め尽くしている感じですね。西側から湾岸のほうに見たときのビル群が、なんというか、墓標のように見えて……。
上空から見ると、なんだか人気(ひとけ)が感じられませんね。
佐藤:SF映画に出てくるような、ディストピア感もありましたね。東京を鳥瞰していると、新宿や渋谷、霞ヶ関などのビルは突き抜けて見えますが、中小サイズのビルは、なだらかなちょっとしたした起伏ぐらいにしか見えないんですよね。スタジアムや墓地など、面積が広いものは目立つんですけど。
佐藤:世田谷あたりから新宿方面を見ると、背の低い戸建てがざーっと並んでいるのですが、上から見ると小さな石が並んでいるようでした。よくない言い方かもしれませんが、たとえば高級住宅街にある豪邸でも空から見ると、小さな石かちょっと大きな石くらいの違いなんだなと(笑)。
そういう空から見たらわずかなスペースを巡って、人間が所有権を互いに主張してると考えると、何だか奇妙な話だなとも思いました。軽い厭世観を覚えましたね。
―上から見たら小さな場所でも、人間の社会ではその軸で価値がついているわけですよね。
佐藤:そうですね。それでもやっぱり東京は、空撮するのに世界で一番おもしろい場所なのではないでしょうか。
世界に大都市は多くありますが、東京ほど広範囲にわたってあれだけ埋め尽くされている街はほかにないと思います。ニューヨークもマンハッタンはすごい密度でしょうが、その中に自然がありますし、少し外れると田舎です。ですが、東京はひとつの隙間も残さず埋め尽くされているメガシティ。なにかひとつの実験場のようにも思えてきますね。
写真家
佐藤健寿(さとう・けんじ)
世界各地の”奇妙なもの”を対象に撮影・執筆。ベストセラーとなった『奇界遺産』『奇界遺産2』(エクスナレッジ)ほか著書多数。2021年に7年ぶりの続編となる『奇界遺産3』を刊行。
世界各地の”奇妙なもの”を対象に撮影・執筆。ベストセラーとなった『奇界遺産』『奇界遺産2』(エクスナレッジ)ほか著書多数。2021年に7年ぶりの続編となる『奇界遺産3』を刊行。
ここに掲載している東京の上空写真はごく一部です。「TRANSIT52号東京特集」に掲載している写真もぜひご覧ください。