1994 『GQ』
老舗のコモドアホテルを買収し、グランドハイアットホテルに。トランプが最初におさめた事業的大成功だ。美人モデルとも結婚したし、マンハッタンにトランプタワーも開業。『GQ』ではオノレのサクセスストーリーを語り尽くし、セレブ業界のトップへ向かって突っ走る。若きトランプ、エネルギーが漲ってます。
アメリカの実業家として世に知られ、第45代米国大統領を務めたドナルド・ジョン・トランプ。いま再び第47代アメリカ大統領に選ばれようとしている。いったい彼は何者なのかーーー?
text=Takashi Sakurai, TRANSIT
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アメリカ大統領になる以前は、ビリオネアとしてその名を知られていたドナルド・トランプ。実際のところ、どうやって稼いでいたのか?
1946年、アメリカのニューヨークでドイツ系アメリカ人の父とスコットランド出身の母の間に生まれる。トランプはペンシルベニア大学で経済学を学んだのち、父フレッド・トランプが営んでいた不動産開発業を引き継ぐ。
最初の頃は、ニューヨークのコモドアホテルの改修やプラザホテルの買収など、父親の資産を使いまくりながらも頑張っていたようだ。しかし、タージ・マハルというカジノを買い取ったあたりから暗転。4度の破産を経験することになる。
挽回すべくトランプが発動したのが「俺を見ろ!」プラン。雑誌の表紙やトーク番組などに積極的に登場し、ビリオネアというイメージを世の中に固着させていく(実際の資産額は10億ドルにはほど遠かったとか)。そしてそのイメージを武器にライセンス業へと進出。高額なライセンス料を取ってさまざまなものに「トランプ」の冠を戴せた。トランプ・モノポリー、トランプ・ステーキ、さらにはトランプ大学なんてものも(のちに詐欺で訴訟される)。
世にトランプが溢れた。
そんなペテンが通用したのは、TV番組『アプレンティス』の存在も大きい。トランプがホストを務めたリアリティ番組で、出演者は不動産王の薫陶を得るべく奮闘。番組に登場する豪華絢爛な会議室などは、まさしく億万長者のそれだった。でも、実はこれすべてセット。番組スタッフいわく「トランプの会議室はボロくて使えなかった」し、強烈なキャラもディレクションの賜物。もともと制作側はギャグのつもりだったのだ。
それが世に出ると予想外の事態。視聴者たちは、この偽億万長者を「クール!」と言って迎え入れ、トランプは一躍、時の人に。イメージ戦略は大成功である。
老舗のコモドアホテルを買収し、グランドハイアットホテルに。トランプが最初におさめた事業的大成功だ。美人モデルとも結婚したし、マンハッタンにトランプタワーも開業。『GQ』ではオノレのサクセスストーリーを語り尽くし、セレブ業界のトップへ向かって突っ走る。若きトランプ、エネルギーが漲ってます。
1987 年には自伝を発行。「不動産王にビジネスを学ぶ」というサブタイトルとは裏腹に、不動産業は不調だった。『Newsweek』にて特集が組まれるが、トランプの強引なやり口にやや批判的な内容。この頃から頻繁にメディア露出攻勢をスタート。映画にもカメオ出演するが、見事にワースト助演男優賞を獲得しちゃった。
不動産ブームも陰りが見えるなか、徐々にライセンスビジネスを開始。さまざまなトランプ・ブランドを世に放ち始める。カジノ経営がたたり、約90億ドルといわれる負債を抱え、ぶっちぎりの逆ビリオネアに。『PLAYBOY』表紙での決め決めっぷりは、「遊んでる場合じゃない!」状況への自虐的ギャグなのか?
トランプ大ピンチはつづく。1992 年に 3 つのカジノを売却。プライベートではイヴァナと離婚。と思ったら、すぐに不倫相手のマーラと再婚&一緒に表紙登場。普通はなかなかできない所業も、彼ならばお手のものだ。しかもそれを機に、経営のほうは回復傾向。 1996年には、ミス・ユニバース機構を買収。女好き(?)トランプの夢がかなった瞬間か!?
リアリティ番組『アプレンティス』の放送が開始され、“デキる男・トランプ”というイメージが全米中に拡散開始。国民にちやほやされて、トランプもとってもよい気分。調子に乗って『Esquire』ではブリンブリンの億万長者スタイル。2007年には、アメリカのプロレス団体 WWEのリングにも登場。富と名声は手に入れた。残るは……。
億万長者として抜群の知名度を誇っていたドナルド・トランプだったが、徐々に政界に興味を示しはじめていく。2015年には、「経営者としての手腕を、政治に活かす!」と言って、共和党員として大統領選に出馬表明。2016年に、民主党候補のヒラリー・クリントンを破り、第45代アメリカ大統領に就任(2017年1月20日〜2021年1月20日)。ついにトランプ・ブランドはホワイトハウスに食い込んだのだ。こうしてトランプは政治家や軍人としての経験をもたない初めてのアメリカ大統領となった。
2009年に共和党に参加し、2011年には無所属に。2012年にはやっぱり共和党に舞い戻る。そして、ついに2015年に大統領選への出馬を表明。由緒ある大統領選にトランプが解き放たれることに。この『THE NEW YORKER』の表紙でトランプがカットしちゃってるのは、共和党のシンボルである象。不信感漂う表紙絵。
大方の予想に反して、2017年、トランプが第45代アメリカ大統領に。温暖化はつくり話だとして、パリ協定から離脱。自由貿易推進の要ともいえるTPPからも脱退。エルサレムをイスラエルの首都と認定するなど、暴れまくりイヤー。『The Economist』をはじめ、数多くの雑誌がトランプをモチーフにした危機感溢れる表紙を採用。
アンチ・トランプな表紙を数多く採用してきた『TIME』。これは、移民の子がトランプを見て泣いちゃうの図。トランプの不寛容政策によって約2000人の移民の子が親と引き離されたという、事実を痛切に訴えたコラージュだ。これが引き金となり国内外から強い反発があり、結果、移民の親子を引き離さない大統領令に署名。
大統領としてのトランプは、一貫して「アメリカ第一主義(アメリカ・ファースト)」をスローガンに掲げてきた。アメリカとメキシコの国境間に壁の建設強化案を出したり、非正規移民を取り締まる「ゼロ・トレランス」(不寛容)政策を提案。また、保護主義的な貿易政策を推し進めたり、国際的な気候変動対策の枠組み「パリ協定」や中距離核戦力(INF)廃棄条約からの離脱を表明するなど、独自の政策を歩んできた。
2020年には、2期目の再選を狙って第46代大統領選に出馬するも、民主党候補ジョー・バイデンに敗北。そして2024年の大統領選に出馬を表明する。
その間、ニューヨーク地裁から不倫の口止めを不正処理した罪で有罪評決を言い渡されていたり(大統領経験者が刑事被告人として有罪になるのは、アメリカ初のこと)、敗北した2020年大統領選の手続き妨害、同時にジョージア州に圧力をかけた疑い、大統領退任時に機密文書持ち出した疑いなどの罪に問われている。また同年7月には、ペンシルベニア州で選挙集会の演説中にドナルド・トランプ暗殺未遂事件が発生して、銃撃を受けで右耳を負傷するというショッキングな出来事もあった。
さまざまな話題でも世間の注目を集めつつ、2024年11月の投票結果で民主党候補カマラ・ハリスを敗って第47代大統領に就任することが決まった。
果たして、トランプが再び大統領になることで、アメリカは、世界は、どう動くのかーーー。
1946年
ニューヨーク州クイーンズ区に生まれる。
1959年
素行不良から公立中学校を退学。軍隊式のニューヨーク・ミリタリー・アカデミーに編入。
1964年
ブロンクスにあるフォーダム大学入学。
1966年
ビジネススクール、ペンシルバニア大学・ウォートンスクールに編入。
1971年
大都市での不動産開発を開始。25 歳で父の不動産会社 エリザベス トランプ & サンの経営者に。のちに社名をトランプ・オーガニゼーションに変更。
1976年
破綻状態にあった老舗のコモドアホテルを買収し、1980年にグランドハイアットホテルとして開業。
1977年
チェコスロバキア出身のモデル、イヴァナと結婚。 長男ドナルド・トランプ・ジュニア誕生。
1983年
マンハッタンにトランプタワーを開業。
1988年
プラザホテルを4億ドルで買収。大統領選出馬をほのめかすようになる。
1990年
不動産ブームの終焉とカジノ経営がたたり、90億ドルもの負債を抱え、破綻の危機に。
1991年
トランプ・タージ・マハルが連邦倒産法の適用申請。
1992年
経営するカジノ3つが破綻。イヴァナと離婚。トランプ・シャトル売却。
1993年
マーラと再婚。
1994年
アジアや欧州の投資家と共同でエンパイア・ステート・ビルを買収。
1995年
トランプ・ホテルズ & カジノ・リゾーツを株式会社化。
1999年
マーラと離婚。
2000年
改革党から大統領選に出馬するも2カ月で撤退。選挙では国民皆保険の必要性を訴え、リベラルと呼ばれた。
2001年
マンハッタンに超高級マンション、トランプ・ワールドタワーが完成。民主党に参加。
2004年
リアリティ番組『アプレンティス』の放送開始。司会を務める。
2005年
メラニアと再々婚。
2007年
TV番組『アプレンティス』で人気者に。ハリウッドに看板がつくられる。
2011年
無所属になり大統領選に備えるが、結局不出馬。
2015年
共和党から大統領選出場を表明。