2025年10月に日本初上陸!
モンゴル人の精神性がつまった
『The Mongol Khan(モンゴル・ハーン) 』
現地ウランバートルの観劇レポート

2025年10月に日本初上陸!
モンゴル人の精神性がつまった
『The Mongol Khan(モンゴル・ハーン) 』
現地ウランバートルの観劇レポート

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2025.07.07

5 min read

モンゴルで180回のロングランを記録し、10万5000人以上を動員した演劇『The Mongol Khan(モンゴル・ハーン)』。2023年ロンドン、2024年シンガポールと海外公演も成功をおさめ、いよいよ2025年10月には東京・名古屋での公演が控える。今回はその本拠地であるウランバートルの国立アカデミックドラマシアターで上演された舞台を現地で体感した。

Photo : Hirotaka Hashimoto

Text : TRANSIT  Special Thanks : SUNRISE PROMOTION TOKYO, DIPPS PLANET

モンゴル本国で10万5000人以上を動員した話題の舞台『The Mongol Khan(モンゴル・ハーン)』。
 
演劇の本場ロンドンのウエストエンドでも約4万2000人、シンガポールのマリーナ・ベイ・サンズシアターでも同じく約3万人を動員した舞台が、2025年秋に日本で上演されると聞いて、ひと足先にモンゴルでその舞台を観劇するために首都ウランバートルを訪れた。
 
会場は、ウランバートル・スフバートル地区にある、モンゴル演劇界の中心ともいえる「国立アカデミックドラマシアター」。1931年に設立され、長くモンゴルの文化芸術の礎を担ってきた由緒ある劇場だ。
 
開演前、さまざまなファッションに着飾った老若男女が客席を埋めていく。なかでも20代カップルが多い印象で、若いモンゴル人たちからの強い関心を感じた。

物語の舞台は約3000年前、古代モンゴルに実在したとされるフン族(匈奴)が活躍していた時代。ふたりの王妃から誕生した王子のうち、ひとりは正妻の不義により生まれた子どもであり、王の血を引いていなかった。策略により王子たちはすり替えられ、やがて王国は混乱と悲劇の道を辿っていく。

原作は、モンゴルの国民的作家バブー・ルハグヴァスレンによって1988年に書かれた『印章のない国家』。演出を手掛けたのは、モンゴルで数々の舞台や映像を手掛けてきたヒーロー・バートル氏だ。彼の演出によって、緻密な歴史考証と、伝統的また現代的芸術が見事に融合され、舞台上に壮大な“古代モンゴル”が蘇った。
 
視覚・聴覚だけでなく、嗅覚までも刺激してくる演出。物語中盤にジャスミンの香りが劇場内に漂い、観客自身も物語のなかにいるような臨場感を生み出す。50人以上の俳優たちによる華麗で大迫力の群舞、遊牧民のホーミーや伝統楽器による音楽、そして舞台を彩る鮮やかな衣装や舞台美術が一体となり、五感をとおして観客をモンゴルの壮大な歴史へと誘うのだ。
 
そしてそこにはモンゴルの民族的アイデンティティや誇りが強く表現されている。

赤ちゃんの枕もとにキツネのぬいぐるみを置く風習、国家の重大事を助言するシャーマンの存在、権力を象徴するドラゴン、そして「テンゲル(天)」への畏敬。舞台の細部には、モンゴルの信仰と暮らし、価値観が散りばめられていた。これらは現代にもつながるモンゴル人の精神性そのものの表現といえるだろう。

一糸乱れぬ群舞や複雑な振り付けのパフォーマンスは圧巻!

『The Mongol Khan』の制作背景を覗こうと、演出家のヒーロー・バートル氏にインタビューをした。

なぜいま、古代モンゴルの物語を舞台化しようと思ったのか。そしてそれがなぜモンゴルの人だけでなく、海外でも多くの人の心を掴んだのだろうか。
 
バートル「パンデミックを経て、人間は、もっとお互いを尊重し、自然を大事にしないといけないと気づいたはずです。人間が本当に愛すべきものはなにか、より深く考えるべき時期だと思いました。スマートフォンの登場はいいこともありますが、人と人との距離が遠くなってしまった部分もある。だからこそこの物語をとおして、愛するものについて、もう一度問い直したかったんです」
 
彼はまた、「モンゴルの政治家に、国とは何かを考えるきっかけにしてほしかった」とも語った。この作品が描くのは、国家の安定と永続のために深い犠牲を払わざるをえない王の悲劇。現代のモンゴル社会に通じる問いが込められている。
 
2025年秋に日本で初上演をむかえる『The Mongol Khan』。バートル氏に日本の印象を尋ねてみると、日本を訪れては歌舞伎や能をよく観劇し、日本文化からも影響を受けているのだと教えてくれた。
 
バートル「日本の文化は、派手さより内容を重視しているところが魅力です。ミニマリズムという点でも、モンゴルのゲルの暮らしと共通している。遊牧民は移動するため、必要なものだけをもち、それを大切にしています。その精神性は日本とも近い気がします」
 
舞台の間は外の世界を忘れて没頭してほしいというバートル氏。芸術への関心や集中力が失われている現代人への警告ともいえる。
 
『The Mongol Khan』は、壮大な歴史劇であると同時に、現代に生きる私たちへの問いかけでもある。モンゴルの歴史、信仰、価値観……あらゆる角度から「人間とは何か」を見詰めなおすきっかけとなるだろう。
 
演劇ファン、モンゴルファンのみならず、エネルギーをもらいたい、芸術に圧倒されたいという人すべてに、2025年10月、日本の舞台で、このモンゴルの魂と誇りを目撃してほしい。

Profile

ヒーロー・バートル(Hero Baatar)

1979年、モンゴル・ウブルハンガイ県生まれ。演出家。プロのアニメーション・イラストレーターを経てモンゴル国営放送でキャリアをスタート。社会主義体制から市場経済への移行期に、モンゴル初の民間広告制作スタジオを設立し、広告・プロモーション映像の分野を開拓した。多くのミュージックビデオやCM、長編ドキュメンタリーなどを手掛け、なかでもモンゴルの民族的アイデンティティを映し出す番組制作に力をいれた「モンゴル民族の百人の偉人」と題したシリーズが歴史的資料として高く評価されている。

1979年、モンゴル・ウブルハンガイ県生まれ。演出家。プロのアニメーション・イラストレーターを経てモンゴル国営放送でキャリアをスタート。社会主義体制から市場経済への移行期に、モンゴル初の民間広告制作スタジオを設立し、広告・プロモーション映像の分野を開拓した。多くのミュージックビデオやCM、長編ドキュメンタリーなどを手掛け、なかでもモンゴルの民族的アイデンティティを映し出す番組制作に力をいれた「モンゴル民族の百人の偉人」と題したシリーズが歴史的資料として高く評価されている。

Information

『モンゴル・ハーン』

●東京会場
2025年10月10日(金)〜10月20日(月)
場所|東京国際フォーラムホールC
住所|東京都千代田区丸の内3-5-1 東京国際フォーラム 1階
問い合わせ先|サンライズプロモーション東京
TEL|0570-00-3337(平日12:00~15:00)

 

●愛知会場
2025年10月24日(金)〜10月26日(日) 
場所|愛知県芸術劇場 大ホール
住所|愛知県名古屋市東区東桜1-13-2
問い合わせ先|中京テレビクリエイション
TEL|052-588-4477(平日11:00~17:00/土・日・祝休業)

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Yayoi Arimoto

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