映画で世界を旅しよう。
そのエリアに造詣の深い方々を案内人とし、作品を教えていただく連載。
ロシアとトルコに囲まれた、南コーカサス地方の一国、ジョージア。自然が豊かで、旅好き、ワイン好きのネクスト・デスティネーションとしても注目される同国について理解を深めるための作品を、首都トビリシ在住の翻訳家、児島康宏さんに選んでいただきました。
Text:Yasuhiro Kojima
テンギズ・アブラゼ監督
ジョージアは知る人ぞ知る映画大国で、ソ連時代から数多くの傑作を生み出してきた。その一つが、ソ連の恐怖政治を告発するテンギズ・アブラゼ監督の『懺悔』だ。1984年に完成してからいったんは上映を禁じられたものの、数年をへて公開されるとソ連中で大反響を巻き起こし、当時の改革の気運を象徴する映画となった。
元市長の死体が何度も掘り返される事件が起こり、犯人の女性の裁判が行なわれる。女性は元市長に両親を奪われた過去を語る。真実を知った元市長の孫は……。
「教会へ通じない道が何の役に立つのか?」という最後の言葉が印象に残る。元市長とその息子を一人二役で演じる主演アフタンディル・マハラゼの鬼気迫る演技も必見。
テンギズ・アブラゼ監督は他にも『マグダナのロバ』(1955年、レヴァズ・チヘイゼと共同監督)、『祈り』(1967年)、『希望の樹』(1976年)などジョージア映画史に輝く作品を残した。
ギオルギ・シェンゲラヤ監督
ジョージアといえばピロスマニの絵を思いうかべる方も少なくないだろう。ピロスマニ(ニコロズ・ピロスマナシヴィリ、1862〜1918年)はジョージアの人びとの暮らしや風景、動物などを描いた国民的画家で、独特の画風は一度見れば忘れがたい印象を残す。そのピロスマニの生涯をまるで一篇の美しい詩のように語るのがギオルギ・シェンゲラヤ監督の映画『ピロスマニ』(1969年)だ。
幼くして両親をなくし、裕福な家に引き取られたピロスマニは、独立して友人とともに乳製品の店を開く。しかし、やがて店をたたみ、居酒屋の壁や看板に絵を描いては町をわたり歩くようになる。若い前衛芸術家に見出されて一時は脚光を浴びるも、すぐに忘れ去られ、最後には無一文となってひっそりと世を去る。
画家ピロスマニについては、画集『ニコ・ピロスマニ1862-1918』(文遊社)や、はらだたけひで氏の『放浪の画家 ニコ・ピロスマニ』(冨山房インターナショナル)、『放浪の聖画家 ピロスマニ』(集英社新書)などの本もどうぞ。
児島康宏(こじま・やすひろ)
トビリシ在住。コーカサス言語の研究と、ジョージアの文学・映画の翻訳家。東京外国語大学非常勤講師。
トビリシ在住。コーカサス言語の研究と、ジョージアの文学・映画の翻訳家。東京外国語大学非常勤講師。
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