THINK EARTH&WATCH
2024.11.20
6 min read
映画で世界を旅しよう。
そのエリアに造詣の深い方々を案内人とし、作品を紹介する連載。
今回は、TRANSIT49号『美しき消えゆく世界への旅』の制作に協力してくれたスタッフや、編集部が選んだおすすめ映画からご紹介しよう。たった一本の映画が、それまでの常識や価値観をガラッと変えてしまうことがある。環境問題を描き、未来を予見するかのようなSF映画や、作り手の危機感と熱量が伝わるような映画を知ってしまった以上、もう後戻りはできなくなる......⁉︎
『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方』
愛犬の鳴き声を理由に、ロサンゼルスのアパートを追い出された夫婦。妻は料理家で、本当に体にいい食べ物を育てたいと夫婦揃って郊外に移住、200エーカーの荒れ果てた未墾の土地を耕すところからスタートし、理想の農場をつくりあげる物語。大自然の力強さに面食らいながらも、愛しい動物や植物に囲まれてのびのびと農場づくりに取り組む8年間を追ったドキュメンタリーであり、健やかなコミュニティのあり方、人間のあり方、そして自然との向き合い方が見えてくる。
監督
ジョン・チェスター
公開
2018年
『ジェーン・グドールの軌跡』
霊長類学者でチンパンジーの研究で有名なジェーン・グドールの一生を描いたドキュメンタリー。チンパンジーを個体番号ではなく、名前をつけて呼ぶなどかつてない独自の方法で研究を進め、チンパンジーが雑食で肉も食べることや、道具を作って使うことができることなど、当時は知られていなかったことを発見した。学位のない女性が男性社会の科学界に切り込んでいく姿や、彼女の長きにわたる功績がまとめられている。
監督
ブレット・モーゲン
公開
2017年
『Chasing Coral』
世界中のダイバー、科学者、写真家によって制作されたサンゴ礁の現状を追ったドキュメンタリー。500時間以上が費やされたという水中撮影は圧巻。気候変動により白化していくサンゴの姿を収め、またその原因についても探っている。30カ国からのボランティアなど世界中500人以上の人の協力で映画は生まれており、映画製作自体が一種の環境活動でもあったといえるかもしれない。
監督
ジェフ・オーロースキー
公開
2017年
『Chasing Ice』
Chasing Coral と同じ監督の作品で、氷河に焦点を当てたドキュメンタリー。ナショナルジオグラフィックなどで活躍する写真家、ジェームズ・バログが、アイスランドやアラスカ、グリーンランドなどに数十台カメラを設置し、半年間ずつタイムラプス撮影をした映像で、みるみるうちに崩れゆく氷河が映し出されている。CGではない、本物の映像は圧巻で、地球温暖化の事実を突きつけられる。
監督
ジェフ・オーロースキー
公開
2012年
『One Strange Rock(宇宙の奇石)』
2018年にナショナルジオグラフィックで放送された、地球という惑星の神秘を追求するドキュメンタリー。60分×10話を通して知識を深めることができ、とくに1話目では地球が宇宙のなかでどんな惑星なのかということがわかりやすく解説されている。田中嵐洋さん曰く、「アフリカの砂漠とアマゾンのジャングルはつながっている。地球は奇石であり、奇跡の惑星なのです。ウィル・スミスの語りも最高!!」。
製作総指揮
ダーレン・アロノフスキー
公開
2018年
『180° SOUTH(ワンエイティ・サウス)』
〈patagonia〉創業者イヴォン・シュイナードとイヴォンの親友であり〈THE NORTH FACE〉創業者ダグ・トンプキンス、そして若きフォトグラファーのジェフ・ジョンソンの3人でパタゴニアを目指した旅の記録。自然保護の話でもあるし、イヴォンとダグの年の重ね方が素敵だなと思えるドキュメンタリー。
監督
クリス・マロイ
公開
2010年
『ラグナロク』
ラグナロクとは「世界の終末」の意。ノルウェーの街で気候変動に立ち向かう若者たちのファンタジー活劇で、北欧のヴァイキング神話がベースになっているという「気候変動フィクション」。気候変動をテーマにしたSF映画は、Sci-Fi(サイファイ)ならぬCli-Fi(クライファイ)と呼ばれている比較的新しい、注目のジャンルだ。*Netflixのオリジナルドラマ
監督
モーエンス・ハーゲドルン
公開
2020年
『WALL-E(ウォーリー)』
荒廃しゴミだらけの地球を掃除しつづける、ピュアで愛らしいお掃除ロボットWALL-Eが主人公。人間は宇宙船の中で機械任せの生活を送っていて、全員が完全なメタボ体型になっているという設定が衝撃だった。子どもでも楽しめる分かりやすいアニメーション映画ではあるが、ドキッとする瞬間がいくつもある作品。
監督
アンドリュー・スタントン
公開
2008年
『Unbroken Ground(未開の地)』
アウトドアブランドの〈patagonia〉が作った食の短編映画。同社の食品部門「patagonia PROVISIONS」のプロモーション映画でもあるが、食料生産が地球の生態系の限界を超えている現状を伝え、それを解決する持続可能な農業、畜産業、漁業のポジティブな取り組みが具体的に紹介されている。まんまと〈patagonia〉ファンになってしまう一作。
監督
クリス・マロイ
公開
2016年
TRANSIT49号のなかでも、環境のことがよくわかる映画をたくさん紹介している。そのなかから2本、特別に抜粋してみよう。
『スノーピアサー』
地球温暖化を防ぐために、人工冷却物質が撒かれ、氷河期に突入しているという設定で、「スノーピアサー」という列車に乗り込んで唯一生き残った人間たちが繰り広げる密室劇。困難に陥っても人びとは協力し合うことなく、なお貧困層と富裕層に分けられて生活しているという、人間のおぞましい部分を描いている。環境問題に直面したときの、人類のあり方が問われる。
監督
ポン・ジュノ
公開
2013年
『365日のシンプルライフ』
フィンランド人の26歳の青年ペトリが、自分の持ち物をいったんすべてガレージに預け、必要なものを1日1個だけ取り出していくという実験ドキュメンタリー。きっかけは、なんと失恋という意外なもの。元々モノが好きなタイプの人物で、はじめは取り出したものの一つひとつに喜んだり、ありがたみを感じるのだが、モノが増えてくると「本当にこれは必要なのか?」と戸惑い始めるようになるところが面白い。ネタバレになるが、最終的にペトリには彼女ができる(笑)。人間に必要なものの量と、人の幸せについて考えさせられる映画。
監督
ペトリ・ルーッカイネン
公開
2013年
昔見たSF映画の時代設定が最近になっていたり、もしくは数年後、数十年後などのそう遠くはない未来となっていることに気づくと、ディストピアはもう目の前にあるかのような絶望感が襲ってくる……。現実を受け止めるにはエネルギーが必要だが、環境映画やドキュメンタリーを観ることは危機感や想像力を刺激することにつながるはずだ。