これは映画からはじまる旅のお誘いです。
その土地の縁の人が、現地のことを広く深く知るための作品を選びました。 映画とひととき世界旅行をしませんか?
セレクトしてくださったのは、ムーミンが大好きでフィンランドに渡り、映画『かもめ食堂』のアソシエイトプロデューサーも勤めた森下圭子さん。可愛くて穏やかなイメージの強いフィンランドの、意外な一面を教えてくれました。
Text:Keiko Morishita
ヨーナス・バリヘル、ミカ・ホタカイネン監督
「フィンランドの男たちに捧ぐ」と一言添えられたドキュメンタリー映画『サウナのあるところ』は、2010年の作品。原題はMiesten vuoro(ミエステン・ヴオロ)、直訳すると「男の順番」という意味です。男は泣くな、男はしゃべるな、そんな風に生きてきたフィンランドの男の人たちが、サウナで裸になったときに何と素直になることか。女性観、口をつぐんできた男の過去の振り返り、後悔、思い出しただけで泣きそうなくらいにこみあげてくる幸せの瞬間、自分の人生、価値観、誰かの人生、それをひたすら聞く人たちの姿も印象的です。 それにしてもサウナのあるところって、津々浦々というか、さまざまな環境の中にあるんですね。どんな人の人生にも寄り添っているというか。電話ボックスなど、そんなものからサウナを作るの?というのも含め、町の景色にも大自然の中にも上手に馴染んでいるサウナ。 美しい風景と、フィンランドの男たちの心の内に耳を傾けながら、フィンランドの内面世界に触れていただければと思います。
ユッカ・ヴィドグレン、ユーソ・ラーティオ監督
フィンランドの人はシャイと言われますが、それを凌駕するほどの熱量で「大切なもの」を持っている人も多いのです。それは個性を尊重する教育や国民性が背景にあるのかもしれません。大切なものは趣味として楽しむ人もいれば、いつの日かそれで名を馳せたいなんていう人もいます。そしてこれはメタルバンドとして大舞台に立とうとした人たちのお話。 フィンランドはメタル大国だというのをご存じでしょうか。コンサートやフェスティバルなど、文化事業のほとんどが助成金によって成り立っている中で、メタルのフェスティバルは、チケット収入だけで運営できるくらい人気なのです。でもメタルの立場がイマイチな保守的な田舎で、どうやって自分たちの大切なものを追求していくか。 この映画はフィンランドの夏の美しさもたっぷり楽しめます。爆音を奏で雄叫びをあげていても、メンバーのお母さんの手料理を皆でおいしそうに食べてる微笑ましい場面など、爆笑に次ぐ爆笑を経て、最後は彼らの熱量にほろっときてしまいます。どこか懐かしさもあるけれど2018年の作品。いまのフィンランドの人の生きざまの一例をぜひ。
森下圭子(もりした・けいこ)
ムーミン研究のため1994年秋にフィンランドへ。現地での通訳や取材コーディネート、翻訳などに携わりながら、ムーミンとトーベ・ヤンソンの研究をつづけている。ヘルシンキ在住。武井義明(ほぼ日)との共著『フィンランドのおじさんになる方法。』(角川書店)や、ポエル・ウェスティン著『トーベ・ヤンソン 仕事、愛、ムーミン』(畑中麻紀との共訳、講談社)など。
ムーミン研究のため1994年秋にフィンランドへ。現地での通訳や取材コーディネート、翻訳などに携わりながら、ムーミンとトーベ・ヤンソンの研究をつづけている。ヘルシンキ在住。武井義明(ほぼ日)との共著『フィンランドのおじさんになる方法。』(角川書店)や、ポエル・ウェスティン著『トーベ・ヤンソン 仕事、愛、ムーミン』(畑中麻紀との共訳、講談社)など。