デザインカルチャーにサウナ、オーロラと、見どころ盛りだくさんで日本人にとっても人気の旅先であるフィンランド。では、食事についてはどんなイメージがありますか? ヘルシンキに住む料理家・陶芸家の星利昌さんに、フィンランドの食文化についてたっぷり教えてもらいました。
photography & text:TOSHIAKI HOSHI
みなさん、こんにちは。フィンランドの首都ヘルシンキで、「マクヤマク料理教室」というオンラインの料理教室をしています、星です。2008年にフィンランドの首都ヘルシンキに移住しました。マクヤマクというのは、フィンランド語の造語で「味と味」という意味です。味と味を合わせて、あじあわせ。味のしあわせを作ろうという意を込めています。
TRANSITの読者のみなさんは、旅が大好きで、外国の歴史や文化、現在起こっていることに興味をおもちだと思います。私も旅が大好きな一人です。小さい頃から、外国に住む異文化圏の人びとは何を食べて、何を考えて生きているのかとても気になっていました。
日本国内からヨーロッパ全土、アメリカ、カナダ、アフリカといろんな国を旅して回ってみて、どこの国の人でもみんな同じようにお腹が空き、食べ物から思考や健康がつくられ、日常へと繋がっていることがわかりました。つまり、世界一幸せな国として知られるフィンランドの人びとを知れば、その暮らしや考え方が垣間見えるのではないでしょうか。
とはいえ、「フィンランド料理」と聞いてみなさんは何を思い浮かべるでしょうか?サーモン?トナカイ?はたまたシナモンロール?正直なところ、「何も思い浮かばない」という方も少なくないんじゃないでしょうか。このフィンランド料理の記事では、基本の「き」から紹介していくのでご安心ください。前編となる今回は、「フィンランド料理の食材事情」にフォーカスします。
まずはメインディッシュ、つまり肉類と魚介類についてみていきましょう。
肉類は牛肉、鶏肉、豚肉、羊肉、北部ではトナカイ肉が、どれも放牧、半家畜化、畜産化されていて、市場やスーパーマーケットなどで購入できます。それらを使った加工品のソーセージも人気です。イノシシやヘラジカ、鳥類といった獣肉も狩猟の時期に食べられます。お肉は部位ごとに分けて売られ、お肉屋さんではそれぞれの料理に合った部位を教えてくれます。(そういう会話が楽しいですよね)
フィンランドに住み始めた頃は、どの肉の部位がどんな料理に合うのかほとんど知らなかったので、ヘルシンキ市内のハカニエミ市場の中のお肉屋さんに行っては知らない部位を買い、何に合うのか聞いて、調理するの繰り返しで使い方を覚えていきました。
お魚は白身魚や青魚が代表的です。名前を挙げるとすると、サーモン(Lohi)、クハ(Kuha)、シーカ(Siika)、ハウキ(Hauki)、シラッカ(Silakka)、ムイック(Muikku)などなど。年中市場に出回っていて、スープや焼き物、燻製などにして食べられています。
海の魚はフィンランド湾、バルト海、ボスニア湾で水揚げされます。一方、淡水魚は国内に188,000あるといわれる湖で獲られているんです。国産の甲殻類はほとんどないので、食べたくなったときはスウェーデン産のムール貝を食べています。
次に、野菜類。 夏場は国産のいろいろな種類の野菜が市場の棚を彩りますが、冬場は根菜類や輸入ものがほとんです。とくに夏場の国産のジャガイモがおいしく、皮付きのまま塩茹でにして食べるだけで絶品です。国内で採れた野菜はフィンランド人にとって貴重な存在。夏の恵みとして大切に食されています。日照時間の長い夏に育った野菜は、エネルギーに満ち溢れ、食べると栄養が身体に沁み渡る、そんな気がします。
6月頃からはリンゴンベリーやビルベリーというブルーベリーの一種を森に入って採ることができ、9月頃にはカンタレッリやスッピロバフベロといったキノコ類を採ることができます。こういった、森の中で収穫できる食材も格段においしいです。
ただ冬場は輸入物や温室で育てられた野菜や根菜類が必然と多くなります。フィンランド在住の方は冬に献立を考えることがとてもつらいと嘆いています。
そして忘れてはいけない、主食の話。現在、フィンランドではジャガイモや麦類、パスタ、米が主食として食べられています。でもこれらが主食になったのは、18世紀以降の話。それ以前は、なんとカブが主食としてよく食べられていたそうです。
今年の夏にフィンランドの中部にあるプオランカという町に行った際に聞いた話では、この地域ではいまでもカブをよく食べるとのこと。当時はとくにナウリスマイトヴェッリ(Naurismaitovelli)というカブと大麦を使ったミルクスープとして食べられていたのだといいます。
現在は、分厚く切って、蒸してからバターで焼いたり、ジャガイモやキクイモと一緒にマッシュして食べることが多いのだとか。ずっと前の文化の名残が残っているのだと、感慨深い気持ちになりました。
麦類はライ麦、小麦、オーツ麦がパンに加工されたり、プーロ(Puuro)というミルク粥にして食べられています。とくにライ麦は寒冷地でもよく育つこともあり、ルイスレイパ(ライ麦パンの総称)やサーリストライスレイパ(多島海地域でみられる、甘みのある黒パン)といった酸味のあるライ麦パンが昔から食べられてきました。
小麦を使ったパンやお菓子も伝統的なものが多く、代表的なものにはボイシルマレイパ(バター目玉焼きパン)やコルヴァプースティ(シナモンロール)、ムスティッカピイラッカ(ブルーベリーパイ)などがあります。もちろん、甘いパンだけでなく塩気のあるパンもあり、ピナッティレットゥ(ほうれん草クレープ)、リハピーラッカ(肉入り揚げパン)なども美味ですよ。
また、フィンランドのおにぎり的存在の人気ペストリーが、カレリヤンピーラッカ。どこにでも持っていけて、どんなときでも食べられる伝統的なパイです。これはライ麦などを使用したパイ生地の中に、フィリングとしてミルク粥を入れて焼き上げたもの。つまり、麦と米が合わさった料理なのです。
私が初めてフィンランドに来た日、飛行機の中で「米と麦を使った料理って世界にまだないのでは……!?よし、この2種を使ったオリジナル料理を考えるぞ!」と意気込んでフィンランドに降り立ちました。しかし、その降り立った日にこのカレリヤンピーラッカを見つけてしまったのです。飛行機内で考えていた、米と小麦を同時に使う食文化はすでにあったのだと知り、世界の広さを初日から味わったことを覚えています。
フィンランドの食材事情を駆け足で見てきましたが、いかがだったでしょうか。後編は、フィンランド料理の味の特徴について。お家でも簡単に作れるレシピも紹介しますので、下記のリンクからぜひご覧ください!
料理家・陶芸家
星 利昌(ほし・としあき)
2008年にヘルシンキへ移住。ミシュラン2ツ星の〈Chez Dominique〉などで修行を経て、2011年に〈Ravintola Hoshito〉を開業(2018年に一旦閉店)。現在は陶器制作を手掛けつつ、オンライン料理教室マクヤマクを開催。
2008年にヘルシンキへ移住。ミシュラン2ツ星の〈Chez Dominique〉などで修行を経て、2011年に〈Ravintola Hoshito〉を開業(2018年に一旦閉店)。現在は陶器制作を手掛けつつ、オンライン料理教室マクヤマクを開催。
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