瀬戸内の友だちと、一周ドライブ。
愛媛編/聖地・石鎚山ハイキング!

瀬戸内の友だちと、一周ドライブ。
愛媛編/聖地・石鎚山ハイキング!

People: 日野 藍(YON編集長)

TRAVEL&EAT

2025.04.16

15 min read

住んでよし、旅してよし……そんな広島、愛媛、香川、岡山の瀬戸内4県をローカル視点でまわろうと、その土地の友人の声を頼りにぐるり一周ドライブへ出かけた。

愛媛編のキーワードは、“瀬戸内の山”。 一緒に旅をしたのは、四国のアウトドア雑誌『YON』の創刊編集長・日野藍さん。そして広島生まれのマツダの「MX-30 ROTARY-EV」。

パワフルな藍さんの背中を追いかけて、四国最高峰の石鎚山を拝んで、外界でほっとひと息パワーチャージするまでの1泊2日。登山初心者にもやさしい、山気分を味わえる旅をどうぞ。

Photo : Kazuto Uehara

Text:Maki Tsuga(TRANSIT) Cooperation:MAZDA

今治の夜、台湾を想う

とびしま街道の東端にある愛媛・岡村島の岡村港から今治行きのカーフェリーに乗ること約1時間20分。ほどよい揺れが心地よくて船内のベンチでうたた寝していると「間もなく今治港に到着します」というアナウンスが。車の中に戻り、緑色の船のタラップが岸に降りるのを見守って、「MX-30 ROTARY-EV」のエンジンをかける。

船から降りて今治の街中を走る。
「四国に着きましたね」一緒に旅をしているフォトグラファーの上原和人さんがちょっとうれしそうに一言。船で渡ってきた小さな達成感と安堵。広島・因島生まれの和人さんにとっては船の移動は当たり前かもしれないけど、そんな瀬戸内の日常の中にいるのも楽しい。

海が広がるとびしま海道の景色から一変。
造船工場あり(尾道の風景に似てる)、今治城あり(築城名人・藤堂高虎が築いた海城だ!)、今治市庁舎、今治市公会堂、旧今治信用金庫本店といった数々の丹下建築あり(丹下健三が幼少期に住んでいた!)、のまうまハイランドあり(日本最小の在来馬・野間馬に会える、馬好きにはたまらない〜!)。今治に渡ってきただけでも、愛媛ならではのカルチャーが散らばっていて楽しい。ちなみに今治といったらタオルを思い浮かべるかもしれないけど、丹下健三が今治にいたのもタオルのご縁。丹下の父が家業のタオル業を引く継ぐことになって大阪から引っ越したといういきさつがあったりも。

そんな引き出しいっぱいな愛媛では、四国のアウトドア雑誌『YON(ヨン)』を起ち上げた日野藍さんに山を案内してもらう約束をしていた。愛媛で山といったら、四国最高峰1,982mの石鎚山。空海も修行したという聖地だ。山頂まで登るには長い長い鎖場か長い長い階段の迂回路があって、難易度高め。それでも「登山初心者でも弾丸で石鎚山を味わう方法、ありますよ!」と藍さん。それ、ついていかせてください!

というわけで、翌日の山歩きに備えて、身体が暖まるものを食べようと向かったのが、藍さんが教えてくれた台湾料理が食べられる〈スナック 洋酒・喫茶 碧空〉。青と黄色のファサード、肩書き多めな看板、さらに愛媛で台湾?と思いつつ、扉を開ける。女将さんにおまかせコースをすすめられてオーダー。注文を受けてから餃子を包んだり、蒸籠料理をセット。粽、小籠包、エビ餃子、焼売、餃子、春巻き……どれもおいしくて、追加でスープ餃子やビーフンも頼んで、すっかり全部お腹の中に収まった。

碧空は、ハイボールの名店でもある。GHQで働いていたこともある先代のマスターは洋酒の扱いを知っていたので、近くのラムネ工場から砂糖抜きの炭酸水を仕入れて、四国でいち早くハイボールを出したのだそう。ちなみに現地で買いつけている台湾烏龍茶も料理によく合う。

「看板に『スナック』って書いてあるから、乾き物を置いてるお店だと思うかもしれないけど、もともとスナックは食事ができる酒場という意味があったんですよ」とマスター。実はマスターのお父さんは台湾出身。戦後、GHQの仕事で今治で働いていたときに、怪我をした日本人女性を助けた縁から、その女性の娘さんと結婚することに。その後、今治で洋酒を出すお店をはじめた。その息子さんが、現在お店に立っている2代目マスターだ。マスターが日本と台湾で料理を学んだおかげで、今、こうしておいしい台湾料理がいただけるというわけ。港町今治ならではの海外とのつながりに感謝しながら、身も心も充電完了。
明日はいよいよ石鎚山だ!

聖地・石鎚山でハイキング!

翌朝8時、日野藍さんと西条市で合流。藍さんは愛媛・西条生まれのデザイナーで、山好きというところから、四国をアウトドアの視点で巡る雑誌『YON』を四国の仲間たちと一緒に自費出版でつくっている。『YON』も藍さん自身も元気をもらえる存在だ。

集合場所の駐車場の脇には四国山脈から瀬戸内海に流れ出るまでの恵みも……!「西条市には地下水が湧き出た井戸がたくさんあって、”うちぬき”っていうんです。江戸時代から地面に穴を掘って打ち抜いたところから地表に溢れてきた湧水を使っていたことから、この名前がついたんです。よく水を汲んでいく人もいますよ」と藍さん。

早速、石鎚山に向かってドライブ。
白く雪化粧した石鎚山が遠くに見える。朝靄が立ちのぼる緑の道を悠々と運転して、麓の市街地から30分ほどで登山口の駐車場に到着した。

上/ここから車で15分もいけば高知県という山中にある、西条市の〈金子商店〉。近くには加茂川も流れている。石鎚山登山口に行く前に、飲料、お弁当を調達するならここですませよう。駄菓子やおもちゃも売られていて懐かしい雰囲気。 下/山道も楽々走行する「MX-30 ROTARY-EV」。

石鎚山登山のハイシーズンは5〜10月。一年を通して入山できるけれど、毎年7月1日から10日は「お山開き大祭」があって、とくに賑わう。昔ながらの山岳信仰が残っていて、7月1日だけは女人禁制で女性は山に入れないのでご注意を。

上/狭い山道も心配なし、それでいてたくさん荷物が詰めるのでアウトドアシーンでも頼れる「MX-30 ROTARY-EV」。 下/道路から覗き込んでも川底が見えるほど川の水の透明度が高くてびっくり。

「ロープウェイ乗りますか? ちょうど出ますよ!」チケット売り場のお姉さんの声で、駆け乗る。「山はどこまで登ります? 昨日雪が降ったから、足元が不安だったら上の駅で長靴借りてくださいね」とこちらの装備を見て声をかけてくれる。
ゴンドラの窓からは瀬戸内海と島々がくっきりと見える。海と山がこんなに近いなんて。こうしてみると、瀬戸内海から顔を出している島々も、山の連なりの一部のように見えてくる。

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ロープウェイの山頂成就駅に到着。一気に標高1,300mまで上がる。ぐっと気温が下がったのがわかる。3月下旬、麓の気温は13℃ほどだったけど、山頂の駅の壁にかかっていた温度計の針はぴったり0℃を指している。

駅を出ると……一面、白銀の世界!
サングラスなしで目を開けていられないくらいの、雪の白、空の青。山の上にある石鎚神社の中宮 成就社を目指して歩きはじめる。じっとしていると寒いけど、歩いていると汗ばんでくる。スキーシーズンも終わった雪山ということもあって、登山客も時折すれ違う程度……と思ったら、郵便局の人が歩いてくる(!)。手紙や荷物の郵便物を届けに、こうして週6日、山と麓を行き来きしているそう。挨拶代わりに、といって肩にかけていたホラ貝の音色を披露してくれた。す、すごい。

「よかったら前を歩きます? 誰もいない景色もいいですよ」と藍さん。
ぐぐぅ、ぐぐぅ、っと雪を踏みしめる音、木の陰と雪の反射のコントラスト、得体の知れない獣の足跡の列……。何も喋らず、自分の体を取り巻く360°の世界に夢中になる。このままずっと歩いていけそうなくらい、静かで、楽しい!

20分ほど歩くと急に目の前に大きな鳥居と宿や土産物店の建物が出現。さっきまで人工物のない世界にいたので、ちょっとびっくりしてしまう。冬場はほとんど休業してしまうけど、7月のお山開きの期間を中心に開かれ、登山客や参拝客で賑わうそう。

「このお店は開いているかも!こんにちは〜」と言って、藍さんが顔見知りのお店〈白石旅館 民藝茶屋〉のドアを開けて中に入っていく。
店の奥から、店主の岩田雅好さんが出てきた。おでん、カレーライス、中華丼、ラーメン、そば各種……ごはんのメニューが壁一面に並んでいるけど、準備前ということで「あめゆ」をいただく。水あめ、三温糖、生姜、片栗粉、塩が入っていて、身体が温まる。ありがたい。石鎚山にはあめゆを出すお店が数件あって、登山客はスポーツドリンク感覚で飲むのだそう。

ほっとひと息ついたところで、石鎚神社 中宮 成就社に参拝へ。
ここの見返遥拝殿から、石鎚山の山頂・弥山(みせん)を望むことができる。山に向かって壁一面が窓になっていて、自然と山と自分が対峙する空間になっている。息を呑むような景色、背筋がのびるような緊張感。
 
見返遥拝殿の中には、天狗のお面や、開山の祖・役小角(えんのおづの)の像などが置かれている。最初に山頂に登ったといわれる役小角は、はじめはなかなか頂上にたどり着けず諦めかけていたときに山で斧を研いで針にしようとしている老人に出会って感銘を受けて、再びチャレンジして登頂を果たしたという。(一回諦めたところが現実味がある)。ここでお祈りすれば、難しい願いも達成できるかも……!

石鎚神社 中宮 成就社の見返遥拝殿。お賽銭箱の隣には登山保護用の寄付金箱もあって、山頂への荷物運搬、登山道整備、救急保護費といった、山の管理・運営に充てられている。

石鎚山山頂の弥山が見えた。山頂には石鎚神社 奥宮 頂上社があって、なんと5月から11月頭まで職員が常駐。宿泊、飲食できる山小屋もある。

藍さんは年に数度、石鎚の山頂まで登るそう。
「山頂に行くまでに、試しの鎖、一の鎖、二の鎖、三の鎖があるんです。鎖はそれぞれ30〜70mほどの長さがあって、ほぼ垂直の断崖を登っていくんです。登るにも、途中で諦めて降りるにも、自分でいくしかない。もう目の前の鎖しか見えなくなって、地上の出来事を全部忘れられますね」と答えてくれる。藍さんの清々しい横顔から、山の厳しさと魅力がないまぜになってびしびしと伝わってくる。

試しの鎖は、名前のとおり、一、二、三の鎖が登れるか自分の力を確認するためのもの。それぞれに迂回路があるので、そこから山頂を目指すこともできるが、なかなかの階段地獄らしい。石鎚山は修験道の聖地としても知られているけど、本当に修行だ……。

それにしても、藍さんが四国のアウトドア雑誌『YON』をはじめようと思ったきっかけはなんだったのだろう?
「山は自分にとって、しがらみを忘れて夢中というか無心になれる場所なんですよね。何者でなくてもよくなってくるというか。私はデザイナーなので、自分の好きな四国と、山と、雑誌を全部合わせたものをかたちにできないかと思って、ちょうどコロナ禍になったタイミングでつくりはじめたんです」と藍さん。
雑誌名には、四国の“4”と、「なにしよん?」の“ヨン”の意味がある。誌面に四国愛と山、川、海など自然への愛が溢れ出していて、ページを捲っているうちにどこかに出かけたくなるような雑誌だ。アウトドア好きな人もそうでなくても、四国旅のヒントになるので、ぜひ読んでみてほしい。

山道具の店、鉄板ナポリタン、海辺のコーヒーで癒やされて

石鎚山参拝でご利益を得たところで、藍さんに山帰りによく立ち寄る場所に連れていってもらった。まずは石鎚山の麓にある、山道具のお店〈crosspoint〉。ウエア、ザック、シューズ、ポールから、ランプ、ナイフといったキャンプ用品まで、アウトドアギアがぎゅぎゅっと並んでいて、たしかに山に入る前後に必要なものを揃えられそう。店主の久保一平さんは、子どもの頃から西条の裏山で山遊びをしていた山好き。お店もやりつつ、四国を中心にハイキング、登山、キャンプ、カヌーなど、山&川遊びのガイドも企画している。

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crosspoint店主の久保一平さんと妻の未央さん。カフェやギャラリーも併設されているので、コーヒーや展示を目的に遊びに来るだけでも気分転換できるような空間。

「そろそろお腹空きましたよね? ガツンとお腹いっぱいになれるご飯だと、今治の焼豚玉子飯か、西条の鉄板ナポリタンもいいかな」と藍さん。白ご飯の上に、目玉焼き2つとたっぷり焼豚がのった焼豚飯にも心惹かれるけど、雪山で冷えた体に熱々ナポリタンも大アリ。ということでナポリタンを食べに、〈MAHALO〉へ入店。
 
ナポリタンに生卵が1つ。生卵は、崩してもよし、目玉焼きにしてもよし、炒り卵にしてもよし。鉄板でそれぞれの楽しみ方ができる。麺は、やわやわと鉄板で焦げたパリパリ食感のどちらも楽しめる。はぁ、生き返る〜。

食後のコーヒーを、ということで新居浜市にある自家焙煎の店〈みんなのコーヒー〉へ。新居浜市の市街地から離れた県道沿いに、ぽつんとある。店の目の前に瀬戸内海があって、コーヒー片手に海岸線を散歩するのも気持ちよさそう。

お店の名前のとおり、老若男女いろんな人がさっとコーヒーを飲んで、その場に居合わせたお客さんと会話をして帰っていく。顔見知りだったり、はじめてだったりするようだけど、お店の人ともテーブルで隣り合わせた人とも声をかけやすいようなムードが流れている。会話の輪に入っても入らなくても、コーヒーの香り、目の前の海、店主の伊藤淳さんとスタッフの平田達也さんの朗らかさを同じ空間で共有できて、境界線を緩ませてくれる。

「東京でデザイナーとして働いていて、30代になって地元の愛媛に戻ってきたばっかりの頃、最初は自分の中でうまく東京と地元の間のほどよいところが掴めなかったんですよね。そんなときに、この〈みんなのコーヒー〉を見つけて、母と一緒に来たんです。地元の人も旅人もどちらもいて、それが心地よくて。こういう場所が近くにあってよかったって、すごくほっとしたのを覚えてます」と藍さんが話す。こんなお店、近くにあったら通ってしまうだろうなぁ。

  • 淳さんが自家焙煎したコーヒー、コーヒーバナナジュース、チョコレートケーキにクッキー。

  • 〈みんなのコーヒー〉店主の伊藤淳さんと一緒にお店を切り盛りする平田達也さん。

  • 海辺にぽつんと佇む。

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荘厳な山と穏やかな海、あったかい人たちとおいしいもので、すっかりパワーチャージされた愛媛旅。コーヒーをテイクアウトして、次は香川へ!

Information

MAZDA MX-30 ROTARY-EV

マツダが世界で初めて量産に成功したロータリーエンジンを発電機として搭載。普通充電、急速充電に対応したプラグインハイブリッド自動車。100km超のEV走行ができて、さらなるロングドライブもロータリーエンジンによる発電で充電の不安なく運転できる。環境・走り・電動車としての利便性をうまくバランスさせ、気軽に、身軽に、環境に配慮した使い方が楽しめる。

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Yayoi Arimoto

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