月刊TRANSIT/瀬戸内一周!
TRAVEL&EAT
2025.04.18
15 min read
住んでよし、旅してよし……そんな広島、愛媛、香川、岡山の瀬戸内4県をローカル視点でまわろうと、その土地の友人の声を頼りにぐるり一周ドライブへ出かけた。
香川編のキーワードは、“デザイン探訪”。
一緒に旅をしたのは、デザイン、写真、文章などで風景の裏側にある物語を届ける仕事をしている、ゆう さかなさん。そして広島生まれのマツダの「MX-30 ROTARY-EV」。
瀬戸内国際芸術祭、丹下建築、イサム・ノグチが滞在制作していたアトリエなど、数々の芸術が香川に集結しているのには理由が? 街なかに潜む香川の美の伏線を、ゆう さかなさんと楽しく回収!
Photo : Kazuto Uehara
Text:Maki Tsuga(TRANSIT) Cooperation:MAZDA
上/栗林と書いて「りつりん」と読む。 下/園内には約1400本の松が植わっていて、そのうち約1000本は職人が管理をする「手入れ松」だ。
ゆうさんと待ち合わせたのは、栗林公園。まだ朝8時だというのに、海外からの旅行客、出勤前に散歩を楽しむ地元の人たちで賑わっている。ここはもともと高松藩主の下屋敷として使用されていたところで、徳川の将軍から拝領した盆栽を地に植え替え大きく成長した「根上り玉葉松」、和船が行き交う南湖、人口の滝、数々の茶室があって、豪華絢爛。公園のすぐ後ろには紫雲山(しうんざん)も控えていて、高松市内ながら人里離れた山まで来たような気分になれる。
上/掬月亭の掬月の間。 下/掬月亭で入亭料を払うと抹茶(もしくは煎茶)と和菓子がいただける。
栗林公園の開園時間は、ほぼ日の出から日没までということで季節によって変わる。
香川には「デザイン知事」と呼ばれた名物知事がいた。それが1950〜1974年まで香川県知事を務めた金子正則。郷土食だったうどんを「讃岐うどん」としてPRして全国区にしたのもこの人物。第二次世界大戦の空襲で焼け野原になった高松市で、平和と民主主義の象徴となる建物を建てたいと願っていた金子知事。そんなとき、香川出身の画家・猪熊弦一郎に相談して、丹下健三を推薦されたことをきっかけに県庁舎の設計を丹下に依頼することに。
1958年に完成した香川県庁舎(東館)は、日本の伝統的な木造建築の意匠・構造をコンクリートで再解釈した建築で、直線的な柱や梁のあしらいに神社仏閣のような荘厳さが漂う。外から見ると重厚感たっぷりでちょっと近寄り難い雰囲気もあったけど、中に一歩入ってみて印象が変わった。天井が高く、窓も広く、開放感たっぷり。猪熊弦一郎の壁画、丹下研究室でデザインした設えが柔らかく居心地もいい。県庁ホール内(通常は非公開)の演台や椅子は剣持勇のデザイン。見るべき場所がいっぱい。
ピロティやロビーは来訪者に開放されていて、職員や利用者に迷惑にならないよう気をつけつつ、ぐるり。猪熊弦一郎の壁画や信楽焼の椅子がポップでかわいらしい。
県庁を見学したところで、高松市の街中へ。「この公園も実は見どころがいっぱいあるんですよ」とゆうさん。高松市立中央公園にはイサム・ノグチが設計した赤と黄色の遊具が。サヌカイト(讃岐石)を使った速水史郎の彫刻もある。園内にあるアイパル香川は芦原義信設計、外構の石組みは流政之によるもので、地元の庵治石が使われている。公園の目の前には、日建設計が設計した青緑色の百十四銀行本店が遺跡のような存在感を放って佇んでいる。公園から徒歩5分ほどのところには、山本忠司が設計した〈喫茶 城の眼〉もある。店内には庵治石を使ったスピーカーもある。
街に芸術が散らばっているのがなんとも贅沢な高松……。見逃してしまいそうな風景も立ち止まって教えてくれるゆうさんに感謝。
香川でずっと行きたかったのが、高松市牟礼町にあるイサム・ノグチ庭園美術館。開館日は火・木・土曜日、入館する際は24時間前にチケットを要予約と、狙いを定めて行かないといけないのはわかっていたけれど、どうあがいても取材日程にはまらない……無念。
「庭園美術館がある庵治・牟礼(あじ・むれ)エリアは、独特のカルチャーがある石の町。美術館は開いてないけど、新しいスポットもできていておもしろい場所だから行きましょう」とゆうさん。高松市街地から30分ほど車を走らせると、遠目に岩山が見えてきた。街なかに石材店が立ち並び、採掘された石がゴロゴロと置かれている。これはたしかに石の町だ!
高松市の牟礼町と庵治町の間に位置する五剣山。ここで庵治石が採掘されている。
最初に訪ねたのは牟礼町にある〈蒼島(あおいしま)ショールーム〉。庵治石の加工をしている会社で、石を使ったプロダクトも販売している。そもそも庵治石ってどんな石なんだろう?
「牟礼町、庵治町にまたがる五剣山から採れる花崗岩の一種で、青みを帯びた石なんです。石って風化しにくいと思われるけど、乾燥したヨーロッパではよくても、日本みたいな湿度の高い風土だと劣化しやすいんですよ。その点、庵治石は粒が細かくて風化に強くて、“花崗岩のダイヤモンド”とも呼ばれる石。その分、加工も大変で、庵治・牟礼の職人技は世界に誇るレベルなんですよ」と蒼島の代表・二宮力さん。
庵治石は、採掘、成形、文字入れ、運搬まで、この地域が分業で担ってきた産業。古くは高松城や大阪城、最近では墓石に使われてきたけれど、現在は海外製品に押され気味だという。そこで庵治石と職人たちの技術の素晴らしさにもう一度光を当てようとしているのがこの蒼島。国内外のデザイナーを起用して、庵治石を使ったプロダクトを販売している。
近くにもうひとつおもしろい場所があると、ゆうさんが連れてきてくれたのが、地元のアパレル企業・中商事が運営している〈AJI CIRCULAR PARK〉。店舗、カフェ、オフィス、工場が一体となったスペースで、店頭には循環をテーマにしたものが並ぶ。環境に配慮してつくられた衣服、雑貨、日用品であったり、瀬戸内に因んだものが販売されていたり、布、皮、木材、庵治石の端材まで量り売りされている。
この場所を起ち上げたのが、家業を継いだ代表・中貴史(なかたかし)さんだ。
「私たちの会社は服の製造と販売が本業です。長く着られる質のよいものづくりを心がけていますが、それでもアパレル業界全体でみると、服の廃棄が大きな課題になっています。たとえば日本で着られなくなった衣服の多くは、裁断されて工業用拭布になったり発展途上国に送られます。ただ途上国に届いた服も、結局は着られずにその土地の環境問題になっているケースもあります。日本でも、都会で処理しきれなかったゴミが瀬戸内の豊島に運ばれていた不法投棄事件もありました。見えないところに押しつけるんじゃなく、自分たちの近いところで循環を変えていけないか、ゴミを資産に変えられないかと思って、この場所をはじめたんです」と中さん。
AJI CIRCULAR PARKを一歩出ると、庵治石が並ぶ町並みが目に入る。約8000年前に形成されたともいわれる庵治石。どれだけの時間の長さでものごとが考えられるのか?と問われているような気がしてくる。
「夕暮れ時にいい場所があるんです、今行けば間に合うかも」というゆうさんの言葉で、庵治・牟礼のすぐ西隣にある屋島へ向かう。ちょうど瀬戸内海に夕日が落ちるところで、高松市屋島山上交流拠点施設〈やしまーる〉に到着。高低差のある地形に沿うように、天地左右がぐにゃりと曲がった生き物のような回廊がある。何をするでもなく、ただただ目の前の瀬戸内をずっと見ていたくなるような空間だ。
上/瀬戸内を一望できて自然溢れる屋島。近年、観光が下火になって山の上の旅館や食事処の利用者が減っていたが、2022年に高松市屋島山上交流拠点施設としてやしまーるが生まれて、また新しい人の流れが生まれている。設計したのはSUOの周防貴之。 下/日が沈む高松港。左側に見える白い屋根の建物は、SANAAが設計した香川県立アリーナ。2025年2月にオープンしたばかり。
香川の美を散策する旅だけど、お腹が減ってはなんとやらということで、ここからは香川のうまいものをピックアップ。
🍚朝ごはん、その1
朝がゆ
栗林公園の〈花園亭〉でいただける朝がゆ(要予約)。高知県の乳酸発酵した幻の碁石茶、小豆、栗を使った茶粥で、体に沁み入るうまさ!花園亭の朝がゆ(本館1,650円、泛花亭特別献立2,500円)。ほかにも予約制でお弁当や定食なども注文できる。甘味などの喫茶は予約不要で利用できる。
🍚朝ごはん、その2
あんもち雑煮
栗林公園を散策中に、池の畔の休憩処〈吹上亭〉で気になる看板を発見。噂に聞いていた、白いお雑煮!朝がゆを食べてから30分もたっていないけど、迷うことなく注文。白味噌ベースで汁も甘口。お餅の中には小豆が入っていて甘い。白い、甘じょっぱい、でもこれはお雑煮……最後のひと口まで脳がバグりながらいただく。初めての感じ。おいしい!
🍩おやつ
HIYORI WASANBON
サトウキビの産地といったら沖縄を思い浮かべるかもしれないけど、実は香川や徳島は在来品種のサトウキビの生産地、和三盆(糖)を生産してきた歴史がある。香川にサトウキビが伝わったのは、江戸時代のこと。お遍路旅をしていた奄美出身の人が行き倒れていたところを高松藩の人が助け、その恩返しに薩摩藩の門外不出だったサトウキビを讃岐に伝えたのがはじまり。そんな和三盆を使ったスイーツがいただけるのがこちらの〈HIYORI WASANBON〉。松、桜といった和風な形から、ギター、コーヒー豆の形の和三盆まであってお土産にもいい。口の中で儚く繊細に溶けていく和三盆を使った抹茶ラテ、ほうじ茶ラテやドーナツも美味!
🍜うどん、その1
麺処 綿谷 高松店
お昼の12時。お店の外に10人、店内も延々とつづく行列……。「これくらいならすぐ入れますよ」というゆうさんの言葉がなければ断念していたかもしれない。学食のような感じで、一列になって、お盆を手に、素早く口頭でオーダー。店員さんが手際よくうどんを用意して、お会計へ。店員とお客さんが生み出すグルーブ感がいい。ゆうさんにおすすめされた牛肉ぶっかけと肉うどんを注文。牛丼のお肉のような甘じょっぱいお肉と柔らかめの麺、レモンを絞ってぐいっといただく。やさしい、おいしい。満腹! もともと丸亀で食堂してはじまった綿谷(わたや)。丸亀にもお店がある。
肉うどん
牛肉うどん
🍜うどん、その2
うどんさか枝
香川県庁のすぐ近くにある、さか枝(えだ)。釜揚げうどん小をオーダー、390円、安い!自分でうどんを温め、つゆを注ぎ、お好みでネギ、ゴマ、生姜を入れて完成というセルフ式。この黄金色のおつゆがおいしくて、全部飲み干した。常連さんの中にはかけそばを注文する人も。うどん店のそばも気になる。満腹、満腹。
🥢夜ごはん、その1
惣菜居酒屋 まほろば
老舗〈しるの店おふくろ〉が休業、再出発したのがこちらのお店。カウンターにずらりと並んだお惣菜からメニューを選べるのが楽しい。白味噌のぶた汁が名物で、パラッとかけられた一味の辛みがいい。天然鯛のフライ、ナマコ酢(季節限定)、鰹のタタキ、鶏もつ煮、肉じゃが……何を頼んでもおいしい。予約不可なので直接お店を訪ねてみよう。(定休日は水曜・日曜・祝日 17:00〜22:00 L.O. 21:30)
🥢夜ごはん、その2
骨付鳥 かし羽
高松市内の飲み屋街を歩くとやたらと目にする「骨付鳥(ほねつきどり)」の看板。もともと丸亀市の居酒屋〈一鶴(いっかく)〉からはじまったメニューで、肉が固くなった大人の鶏をおいしく食べるために、塩コショウたっぷり使った、いわばローストチキンだ。多くのお店で、おやどり(固め)とひなどり(柔らかめ)が選べる。高松市のタクシー運転手さんに聞いたところ、「骨付鳥1つでビール2杯はいけるね〜。〈一鶴〉〈寄鳥味鳥(よりどりみどり)〉もよく聞きますね。どこも味つけが違うから、食べ歩くのもいいですよ」ということで、街中で目に入った〈骨付鳥 かし羽(わ)〉に入ることに。真っ黒になるくらいコショウがかかっていて、ガツンとスパイシー。ちょっとジャマイカのジャークチキンを思わせる仕上がり。添えられた生キャベツと一緒につまむ。お酒がすすむのがわかる。
香川を一日歩き、夜ごはんの席で骨付鳥にかぶりついていたとき、ゆうさんと瀬戸内の話題から芸術祭の話になった。
「瀬戸内国際芸術祭の狙いは、海の復権にあるんですよ」とゆうさん。
2010年から3年ごとに行われてきた瀬戸内国際芸術祭。今年2025年も4月18日から11月9日まで、春夏秋と断続的に開催される。香川の直島、女木島、男木島、豊島、小豆島や、岡山の犬島などの島々が主な会場だ。
「昔、瀬戸内では船を使った海上交通が主流だったけど、近年に入って道路や橋が整備されていくなかで、海や島に目を向けなくなっていったんですよね。島々に芸術家を招いて、滞在してもらいながら島の歴史や環境を感じ取って作品に落とし込んでいくことで、訪れた人たちも自然とその島のことを知ることができるんですよ」。その昔、海運の要所として賑わっていた島々は、時代が下るごとに、銅の製錬所が置かれたり、ハンセン病の療養所が置かれたり、ゴミが投棄されたり……瀬戸内の島はいろんな歴史を背負ってきたと香川の人から聞いたのを思い出した。
「会期中も大事だけど、会期外で作品を管理したり芸術家をアテンドするボランティアがいたり、島民の方に協力してもらったり……そういう積み重ねで奇跡のように運営されている芸術祭だなと思います」と一言。
香川にある芸術も、食べ物も、石までも、歩きながら掘り起こして案内してくれたゆうさん。「風景って、人、自然環境、産業、歴史……あらゆるもので構成されていますよね。自分は建物を建てているわけではないけど、そうした風景が生まれてきた物語を伝えることもまちづくりの一部だなと思うんです」
また行きたい場所、行けなかった場所がいっぱい。うどんだって、かけも、肉うどんも、釜玉も、釜バターうどんも……もっと食べたかった。再訪を誓って、瀬戸大橋を渡る。瀬戸内一周ドライブ、次は岡山で手仕事を巡る旅へ!
道端に立ち止まって高松港の夕景を眺める。
MAZDA MX-30 ROTARY-EV
マツダが世界で初めて量産に成功したロータリーエンジンを発電機として搭載。普通充電、急速充電に対応したプラグインハイブリッド自動車。100km超のEV走行ができて、さらなるロングドライブもロータリーエンジンによる発電で充電の不安なく運転できる。環境・走り・電動車としての利便性をうまくバランスさせ、気軽に、身軽に、環境に配慮した使い方が楽しめる。
MX-30 HP
MAZDA HP