月刊TRANSIT/瀬戸内一周!
TRAVEL&EAT
2025.04.19
15 min read
住んでよし、旅してよし……そんな広島、愛媛、香川、岡山の瀬戸内4県をローカル視点でまわろうと、その土地の友人の声を頼りにぐるり一周ドライブへ出かけた。
岡山編のキーワードは、“民藝今昔”。
倉敷のイグサ職人・須浪隆貴さんの作業場を訪ねつつ、民藝に出合える場所を教えてもらいながら倉敷の街を散策。
広島生まれのマツダ「MX-30 ROTARY-EV」に乗って、広島、愛媛、香川、岡山を巡った旅の最終話!
Photo : Kazuto Uehara
Text:Maki Tsuga(TRANSIT) Cooperation:MAZDA
Index
15 min read
香川から岡山に向かって、夜の瀬戸大橋を車で走る。
「意外と星が見えますね」と広島・因島生まれのフォトグラファー・上原和人さん。目を凝らして窓の外を見る、星が近い。対岸の倉敷の明かりが目に入るものの(水島コンビナートだろうか)、思いのほか橋の上は暗い。真っ黒な空と海をつなぐように白い橋がすくっと立っていて、その橋の間に青白い星々が散らばっていて、前から後ろへと流れていく。瀬戸内の青い海の上を走りたい気もしたけど、夜もいい。「MX-30 ROTARY-EV」は私たちを乗せて、30分ほどのドライブであっという間に対岸へ運んでくれた。
岡山で会う約束をしていたのが、イグサ職人の須浪隆貴(すなみりゅうき)さん。翌朝、倉敷の田んぼの中にある自宅兼工房にお邪魔する。日常的に使えるイグサの鍋敷き、瓶入れ、手提げ籠、収納箱、暖簾までつくっていて、自分の家で使っている鍋敷きが隆貴さんのものだと認識したのはだいぶ後になってからだった。
「物が先にあって、自分の名前は風景のなかに消えていくくらいがいい。つくった物から岡山や倉敷のことを知ってくれたら、それで十分うれしいから」と隆貴さん。
作業場には制作途中のイグサのカゴが並んでいて、いい香り。お茶を飲みながら、倉敷とイグサの話をしてくれた。倉敷は海を干拓して拡張してきた街。昔から塩分に強い綿花やイグサの栽培が行われてきた歴史がある。岡山でデニム、学生服、作業着といった繊維業が盛んなのはそのため。一方で、イグサの存在は最盛期よりも影を潜めている。生活環境が変わって畳、ゴザ、籠の需要が下がったこと、倉敷の海岸に工業地帯ができてイグサが育ちにくくなったことなど、いろんな要因がある。
隆貴さんがイグサ編みをするようになったのは、それを仕事にしていた祖母が身近にいたから。「イグサ編みを手伝ったらお小遣いあげるっていわれて、小さい頃から編み方を覚えました(笑)。父も職人だったんですが早くに亡くなってしまったので、僕が家業を継ぐことになったんです」
イグサ職人が減っていく様子をみていた隆貴さんは、それを仕事にしていくこと、続けていくことの大切さをよく知っている。現在、工房で働いているのは、隆貴さん、妻の志歩さん、地元の従業員含めて、4、5人ほど。1日何時間稼働して何個つくるか、売値をどうするか、どこに売るか……一つひとつ自分で考えながら、できることを広げてきた。
鍋敷きや瓶入れのような小物は手で編んで、手提げ籠や収納箱などは木製の機械でつくっている。納屋にある作業場には、巨大な木製のイグサの機り械が。繊維となるイグサの紐を一本一本つなぎ、手と足を使いながら編む。機械の修理も隆貴さん自身でやる。
隆貴さんに会って驚いたのは、蒐める人でもあったこと。壁には日本各地の蓑、籠がかけられていて、郷土資料館のよう。工房前にも無数の水甕が並んでいる。10代の頃から古道具市に出かけて、こうした民具や民藝品を蒐集しているのだそう。そして蒐めると同時に物をよく見ている人でもある。納屋に無造作に置かれたイグサの敷き物は、昔、このあたりでつくられていたもの。「敷き物もつくりたいんですよね。少しずつやりたいことを増やしているところです」と話す。
最初は籠編みからはじめたけれど、昔のものを見て瓶入れや暖簾をつくったり、現代の暮らしと照らし合わせながら収納箱をつくったりと、イグサのプロダクトを増やしていっている。ここにあるものも、いつか隆貴さんの手で生み出しているかも……!
この春からは、同じく岡山でイグサとワラの職人をしている丙さんと一緒に、岡山県の高梁市吹屋で〈艸(くさ)〉というお店もはじめた。隆貴さん自身も、倉敷の工房兼住居を改装中で、ここを店舗とギャラリーにする構想もあるそう。
倉敷から車で1時間ほどにある県北の真庭、県東の牛窓・備前も、それぞれ手しごと視点でいいお店、おもしろい人たちがいるという話を隆貴さんから聞きつつ……時間が足りない。それはまた今度のお楽しみとして、隆貴さんから倉敷のおすすめを教えてもらって美観地区へ向かう。
車内は広くて快適でありつつ、狭い路地も通れるコンパクトさも兼ね備えた「MX-30 ROTARY-EV」。
美観地区入口にある倉敷国際ホテルを横目に(棟方志功の版画がある! 宿、レストラン、バーを利用しながら見たい)、パルテノン神殿のような景観の大原美術館を通り過ぎ(モネ、ゴーギャン、ピカソ、エル・グレコ……名作揃い!)、倉敷民藝館へ。
倉敷民藝館は、東京・駒場東大前にある日本民藝館に次いで、日本で2番目にできた民藝館だ。倉敷と民藝の縁をつないだのが、倉敷の実業家・大原孫三郎。柳宗悦と親交のあった大原孫三郎は、民藝運動のよき理解者であり、日本民藝館の設立を支援。孫三郎の意志は長男の總一郎に受け継がれ、倉敷にもぜひ民藝館をとの思いから、倉敷民藝館設立に尽力したという背景がある。
そんな倉敷民藝館に一歩足を踏み入れるとタイムスリップしたような気分が味わえる。江戸時代に建てられた米倉に、地元・岡山の民藝、日本全国の民藝、世界の民藝、企画展の展示があって、時代と世界の境界を越えてぐっと引き込まれる。お店も併設されているので、自分の暮らしとつなげて民藝を見つめることができる。
民藝や暮らしの道具を扱うお店をいくつか教えてもらったなかで向かったのが、〈融(とおる)民藝店〉。須浪隆貴さんのイグサ製品、同じく倉敷で制作活動をしている石川昌浩さんのガラス製品といった地元岡山の品々から、県外のものまで、所狭しと並んでいる。お店に立つ2代目店主の山本尚意(たかのり)さんは東京で写真の仕事をしていたけれど、東日本大震災を機に地元の倉敷に戻り、大人になって改めて民藝に出会い直したという。地元の人や国内外のお客さんで店内は賑わっているけれど、気になっているものがあると、一つひとつ丁寧に作家や作品の説明をしてくれてありがたい。
店の後ろには阿智神社が控えている。昔は神社のある高台が陸、その下は海だったそう。
お腹が空いてきたところで、隆貴さんもよく行くという〈やまこうどん〉へ。岡山でうどん?香川じゃなくて? と思うかもしれないけれど、岡山県もれっきとしたうどんカルチャーがある。ざるうどんにつゆと具材をのせた「ぶっかけうどん」スタイルや、自分で麺を温めて、トッピングを選んで、片付けまでする「セルフ式うどん」スタイルをつくったのも岡山のうどん店!……という説があるとかないとか。
そんなわけで、やまこうどんの「にくまぜうどん」をいただく。茹でたてほやほや、コシがあるけどやさしい口当たりで、甘じょっぱい牛肉やごぼうチップといった手づくりの具材もおいしい。飴色の器までおいしそう……これは出西窯だろうか。「お店の器は融民藝店で選んでいるんです。扱いに気を使いますが、せっかく民藝の街にいるので本物を使いたいと思って」と店主の山下貴司さん。民藝視点で散策中だと伝えると、ここも行ってみてくださいとコーヒー店を教えてくれた。
再び、えびす通商店街に戻る。やまこうどんの貴司さんが教えてくれたのが、この商店街のアーケード内にある〈GJG ESPRESSO STORE〉。お店の中には銀色に輝くエスプレッソマシンと、巨大な焙煎機。そして、スピーカー、ゴジラの置物、民藝の花瓶など、和洋折衷な部屋にお邪魔した気分。壁に貼られた火の用心の御札が気になる。岡山・真庭にある和尚がしたためた札らしい(欲しい)。エスプレッソとアイスコーヒーをオーダー。注いでくれたグラスがかっこいい。GJG店主の渡邉史朗さんに聞くと、倉敷のガラス作家・石川昌浩さんが自分のグラスにエナメルペイントしたものだという(欲しい)。
物欲も、食欲も、大いに刺激された手しごとの国・岡山。つくることも大事だし、買うことも、食べることも、大事なコミュニケーション。瀬戸内4県で手に入れた品々を座席に置いて、さみしいけれど「MX-30 ROTARY-EV」に乗って広島までの帰路につく。瀬戸内一周のロングドライブ、お疲れ様。(バッテリーとガソリンで走行していたので、1回のガソリン給油で、広島、愛媛、香川、岡山、そして広島まで、瀬戸内一周できてしまった。ありがとう、MX-30 ROTARY-EV……!)
瀬戸内に通底する穏やかなムードもあるけど、どの県も個性強めでそれぞれの土地で出会った人と景色がくっきりと脳裏に浮かんでくる。「島と農」を巡った広島、「瀬戸内の山」を体感した愛媛、「瀬戸内の美」の秘密を訪ねた香川、「民藝の今昔」に出合った岡山……瀬戸内一周ドライブが終わる。
でも、まだまだ遊び足りない!また旅したいし、やっぱりちょっと住んでみたい! そんな瀬戸内の旅なのでした。
MAZDA MX-30 ROTARY-EV
マツダが世界で初めて量産に成功したロータリーエンジンを発電機として搭載。普通充電、急速充電に対応したプラグインハイブリッド自動車。100km超のEV走行ができて、さらなるロングドライブもロータリーエンジンによる発電で充電の不安なく運転できる。環境・走り・電動車としての利便性をうまくバランスさせ、気軽に、身軽に、環境に配慮した使い方が楽しめる。
MX-30 HP
MAZDA HP