#今週のTRANSIT編集部日誌
祈るように暮らす山間の町、岩手・遠野へ
磯部里紗(TRANSIT.jp)

連載:From the Editors’ Desk

#今週のTRANSIT編集部日誌
祈るように暮らす山間の町、岩手・遠野へ
磯部里紗(TRANSIT.jp)

TRAVEL

2025.11.21

5 min read

今、どんな記事をつくってる? 週末はどこへ行ってた? 最近気になっていることは? などなど、TRANSIT編集部のオンオフの日々を週単位でお届けします!

Photo & Text:Risa Isobe(TRANSIT)

こんにちは、TRANSIT.jp編集部の磯部です。津賀につづいて、第2回もWEBチームよりお届けします!
 
編集部はただいま来月12月11日(木)発売のスウェーデン号に向けて、校了作業の大詰め。慌ただしくも、完成へと着実に向かっている。
私はふだん、TRANSIT.jp(WEBサイト)の記事制作をしているけれど、スウェーデン号では自然や季節の行事や祭事にまつわるページを担当することに。気がつけばこの数カ月、そのことばかり考えていた。
そんなこともあって、8月に訪れた岩手県遠野市の記憶がふっとよみがえることが多く、今回はその旅のことを書いてみる。
 
そもそも遠野に行こうと思ったのは、3日ほどの休暇が取れたから。以前から気になっていたので、思い切って足を運ぶことにした。東京からは新幹線を乗り継いで約4時間で到着するし、なんだか体が自然を欲している気がして、前々日に急いで新幹線を予約。
四国で生まれ育った私にとって、暮らしのそばにはいつも海があった。だからこそ、山に囲まれた遠野の土地は、なんだか未知の世界のように思えたのだ。

自然とともに暮らす町、遠野

写真を撮ったのは8月。もう稲穂が色づきはじめていた。

ということで、いざ遠野へ!
新幹線を降りて在来線に乗り換えると、列車は山奥へとぐんぐん進んでいく。そして、山間を縫ってたどり着いたのは、見渡す限り山に囲まれていて、稲穂がどこまでも広がる土地。初めてなのに、どこかで見たことがあるような原風景が広がっていた。
 
匂いや景色をそのままで感じたかったから、観光協会で電動アシスト自転車をレンタルして、市内をぐるっと散策することに。自転車を漕ぐと、稲の芳ばしさにからだの内側まで満たされて、夏を感じる。この香りに包まれながら毎日眠ることができたら、どんなに幸せなのだろうか。

少し自転車を走らせて気がついたのは、町のあちこちに祠や供物があって、日常の中に静かに祈りが息づいていること。その後に立ち寄った遠野市立博物館の展示から、この町が冬の厳しい寒さにさらされ、かつて幾度も飢饉に見舞われてきたことを知った。
 
自然は恵みを与えてくれる一方で、ときに人を圧倒する存在でもある。だからこそ人びとは、山や森の奥に「異界」を感じ、祈りや禁忌を通してその境をそっと引きながら、自然とともに暮らしてきた。

田んぼの中に佇む1本の小さな木と石たち。その周りにはまるでお供え物のように、花が咲いていた。

口の中の“当たり”と、道ばたの“ラッキー”と

そして遠野での滞在では、景色だけでなく、食べものにも驚かされた。
初日の夜、ふらりと入った居酒屋で目にとまった「遠野パドロン」の文字。聞いたことも見たこともない名前に惹かれ、迷わず注文。
運ばれてきたのは、唐辛子とピーマンの中間のような見た目をした素揚げの野菜。店主の「たまに当たりがありますよ」の言葉に最初はピンとこなかったけれど、食べ進めていると、突如、ひりつくような猛烈な辛さを感じる個体が登場!
食べてみるまで“当たり”かどうかわからないとは……まるでロシアンルーレットのようだ。スペイン北西部・パドロン地方原産の野菜で、遠野の新名物にもなっているらしい。

そして遠野での滞在では、景色だけでなく、食べものにも驚かされた。
初日の夜、ふらりと入った居酒屋で目にとまった「遠野パドロン」の文字。聞いたことも見たこともない名前に惹かれ、迷わず注文。
運ばれてきたのは、唐辛子とピーマンの中間のような見た目をした素揚げの野菜。店主の「たまに当たりがありますよ」の言葉に最初はピンとこなかったけれど、食べ進めていると、突如、ひりつくような猛烈な辛さを感じる個体が登場!

食べてみるまで“当たり”かどうかわからないとは……まるでロシアンルーレットのようだ。スペイン北西部・パドロン地方原産の野菜で、遠野の新名物にもなっているらしい。

また、遠野はホップ栽培で知られ、あちこちに畑が広がっていた。
収穫の時期だったせいか、道路には運ばれる途中で落ちたホップがちらほら。初めて目にしたその光景に、心がそっとくすぐられるようだった。

また、遠野はホップ栽培で知られ、あちこちに畑が広がっていた。
収穫の時期だったせいか、道路には運ばれる途中で落ちたホップがちらほら。初めて目にしたその光景に、心がそっとくすぐられるようだった。

そんなふうに、豊かな自然を活かして作物を栽培したり、いたるところに祈りのかたちが残されていたりと、自然と祈りとともに暮らす町、遠野。
 
東京に戻ってからも、あの日見た景色をときどき思い起こしながら、今日もパソコンとにらめっこしている。

8月後半なのに朝晩は冷え込む遠野。同じ日本なのに、東京とは違う。「今まで感じたことのない寒暖差だ……」とひそかに感動したりもした。

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Photo by

Yayoi Arimoto

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