連載:NIPPONの国立公園
National Parks of Japan.
まだ凍える寒さの東京を飛び立ってから約2時間、奄美大島の空港へ降り立つと、生暖かい風に包まれた。半袖シャツ姿の職員が目に留まる。亜熱帯の島にはすでに春がやってきているようだった。
実は奄美大島には何度か来たことがある。私にとっては、シュノーケリングや海釣りをして、お気に入りの黒糖や島バナナをつまみつつ、喧騒から離れてのんびり過ごすための場所……なのだが、この地を南国リゾートのひとことでくくってしまうにはもったいない。そのシンボルともいえるのが、ルリカケスだ。
その存在を知ったのは、徳之島で造られているラム酒。エチケットに描かれた鮮やかな美しい瑠璃色の羽が印象的で、調べてみると奄美大島や徳之島に生息し、国の天然記念物に指定されている鳥だった。さらにリサーチを進めると、サンゴ礁や鍾乳洞、マングローブ、干潟といった独特の地形や自然環境がある奄美群島は、希少種・絶滅危惧種の宝庫だという。そこで、せっかくならば、とさまざまな景色をめぐりながらルリカケスの背を追いかけることにした。
わぁ! 車を降りて数十メートル、視界が開けると胸が高鳴った。目と鼻の先には、白い砂浜とクリアな海。
初日、島ならではの自然景観を満喫するために訪れたのは、笠利町の土盛海岸。”ブルーエンジェルと呼ばれる”という謳い文句に誘われてやって来たのだが、人気のないオフシーズンの海岸には、たしかに楽園のような気配が漂う。海に足を浸してみると、それほど冷たくない。心身が浄化されるようなパノラマを前に、ちょっとしたリゾート気分を味わう。
笠利半島の海沿いの道を車で走ると、こうした透明度の高い遠浅の海がつづいていた。ぽつぽつとサンゴ礁の影がまだらに映り、ブルーとグリ ーンの濃淡で、複雑な色を重ねている。ずっと眺めていても見飽きない、自然の造形美。夕方、その理由に合点がいった。夕日をみるため笠利崎灯台に向かう途中で、ここ大島にはウミガメが上陸・産卵する浜がいくつかあり、笠利町には浦島太郎伝説が残ることを知ったのだ。海の中はまさに龍宮城の世界なのだろう。
2日目はいよいよルリカケス探しのはじまり。早朝は、南部・瀬戸内町にある油井岳展望台へ向かう。そこではリアス式海岸がつづく大島海峡や伊須湾を一望でき、幻想的な朝日がみられるに違いないと目星をつけたのだ。(国の特別天然記念物で夜行性の)アマミノクロウサギに出合えるかも? ハブに遭遇したら困るなぁ。あれこれと思いをめぐらせながら、展望台へとつづく真っ暗な山道を進む。
そんな、淡い期待と心配は杞憂に終わったが、日の出を待つ時間はとても楽しかった。空が白み、朝焼けに染まる雲が色濃くなるにつれ、鳥たちの鳴き声が増え、大きくなっていったのだ。ホーホー、ピーピー、ピチピチピチ、低音に高音に、まさに森の演奏会。このコーラスの輪にルリカケスもいるのだろう。
その日の午後は、龍郷町にある自然観察園を訪れることにした。ルリカケスを探しているというと、地元の人が「奄美自然観察の森がいい」と教えてくれたのだ。一帯は国立公園にも指定されている地域で、自然を生かした広い園内には遊歩道が整備され、奄美固有の野鳥や昆虫などを観察しながら散策できるようになっている。森を歩くと、早朝の展望台ほどではないが、さまざまな鳥のさえずりが聞こえた。ルリカケスは「ギャ ーギャー」鳴くとガイドブックに書かれているが、見当もつかない。
無力感に包まれながら、園の中央あたりに位置する池を過ぎたあたりで、バサッと青黒い生きものが横切った。あれば、ルリカケス……!? 一同目を合わせる。しかし、そのあとは姿を現さなかった。我々の必死の”捜索”に、「あいつらは臆病だからなぁ」と自然観察の森で工事をしていたお兄さんが笑う。
うーん、困ったぞ。そもそも野鳥観察初心者が、貴重な鳥を容易に撮影できるはずもない。そんなわけで、3日目はガイドさんに案内をお願いすることにした。
本記事はTRANSIT51号より再編集してお届けしました。
日本の国立公園
北から南まで、日本に散らばる国立公園をTRANSIT編集部が旅した連載です。
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環境省・日本の国立公園