宝石のような美しい街並みと、新旧入り交じるカルチャーが息づく、中欧諸国の首都。現地を旅するならしたい10のことを、現地に暮らす人や編集部の視点で選びました! さてハンガリーの首都ブダペストでは、どこいく? なにする?
Text:TRANSIT
ハンガリーの首都ブダペストは、「ドナウの真珠」「ドナウのバラ」とも呼ばれる街。街中にはドナウ川が流れていて、川を境に西側のブダ地区と、東側のペスト地区に分かれている。丘陵地のブダ地区は、中世の空気を感じられる王宮から古代ローマ遺跡まであるエリア。平地のペスト地区は、繁華街のヴァーツィ通りから市民公園など現代の街の空気を感じることができる。蚤の市へ行ったり、温泉に入ったり、アール・ヌーヴォーの美に触れたり……ブダペストならではの街の遊びをご案内!
ブダペストでしたいこと!
ヨーロッパに来たなら、蚤の市巡りは外せない。エチェリ・フリー・マーケット(Ecseri Flea Market)は、東欧最大規模を誇る蚤の市。オーストリア=ハンガリー帝国時代の家具や伝統的な陶器、さらには社会主義時代のインテリアまで、この市場はまさに時空を超えた旅そのものだ。なかでも〈ジョルナイ(Zsolnay)〉製のアイテムを見つけたら、迷わず購入をおすすめしたい。食器だけでなく、オブジェや建築用タイルの種類も豊富で、アール・ヌーヴォー建築で知られる建築家レヒネル・エデンが多用したことでも有名だ。
観光気分に少し疲れたなら、トラムからバスに乗り換えて郊外のブダイ・フリー・マーケット(Budai Zsibvásár)へ。地元民向けのこのマーケットでは古着や布製品も豊富に揃い、ハンガリーの伝統衣装や美しい刺繍が施されたテーブルクロスなど、職人の手仕事が光る品々が雑多に並べられている。「マチョーのバラ」と呼ばれる丸みを帯びた花弁が幾重にも重なる刺繍は、ハンガリー北東部にあるマチョー地方に伝わる代表的な刺繍モチーフのひとつ。コースターなどの小物類は、お土産にもぴったりだ。
宝探しのコツは、朝早くから蚤の市に行くこと。エチェリの蚤の市は、平日と日曜は朝8時から、土曜は朝5時からはじまる。ブダイの蚤の市だったら土・日曜朝7時から。開店と同時にバイヤーが押し寄せ、市内のショップで10倍近い価格で販売されることもあるため、スタートダッシュを心掛けよう。
ハンガリーの温泉の歴史は、約2000年前のローマ帝国時代にまでさかのぼる。カルパチア盆地に位置するこの国の地下には、比較的浅い場所に熱源があり、地下水が自然に温められて温泉が形成されてきた。古代ローマの兵士や市民が日々の疲れを癒やしていた温泉文化は、中世に入ると治療効果が認められ、ゲッレールトの丘の麓に温泉治療施設が建立される。16〜17世紀にはオスマン帝国の支配下でトルコ式の温泉文化が定着し、公衆浴場(ハマム)が普及。現存するルダシュ温泉(Rudas Gyógyfürdő és Uszoda)はその名残を今に伝え、ドーム型の天井や幻想的な光の演出が、当時の雰囲気を感じさせる。
19世紀になると、ハンガリーはオーストリア=ハンガリー帝国の一部として統治され、急速に近代化が進む。経済成長とともに都市インフラが整備され、温泉施設も市民や観光客向けに開放されるように。こうして、ブダペストは温泉都市として再び黄金時代を迎え、華麗な装飾が施されたセーチェーニ温泉(Széchenyi Gyógyfürdő és Uszoda)やアール・ヌーヴォー様式を取り入れたゲッレールト温泉(Gellért Gyógyfürdő)などが誕生。地元の人びとにも親しまれる温泉文化が根づいていく。
ハンガリーの温泉は36〜38度前後のぬるめのお湯が主流。水着を着用し、数時間のんびりと過ごすスタイルが一般的で、まさにスパリゾート感覚で楽しめる。14歳以上の利用が推奨されている施設もあるほどミネラル分が豊富な温泉もある。温泉治療の文化が根づいているため、リラクゼーションだけでなく健康増進を目的とする利用者も多い。歴史ある温泉施設から、スパ感覚で楽しめる温泉まで、バリエーション豊かな温泉文化が生きるブダペスト。旅の合間に、ぜひハンガリーならではの温泉体験を堪能してみて。
ブダペストは、ヨーロッパでも有数のアール・ヌーヴォー建築の宝庫。19世紀末から20世紀初頭にかけて、この芸術様式が花開き、現在も街の随所にその優雅なデザインを楽しめるスポットが点在している。
まず訪れたいのが、市内中心部に位置するグレシャムパロタ。美しいアイアンワークが施されたこの建物は、現在〈フォーシーズンズホテル グレシャムパレス ブダペスト〉として利用されており、外観だけでなく豪華なロビーも必見だ。つづいて、ブダペスト応用美術館(Museum of Applied Arts)へ。緑色のタイル屋根が印象的なレヒネル・エデンの代表作で、ハンガリーの刺繍を用いた装飾品や色彩豊かなタイルで豪華に飾られ、所蔵している工芸作品の質の高さ、華やかさを彷彿とさせる。少し足を延ばして、ブダペスト動植物園(Budapest Zoo & Botanical Garden)も訪れたいところ。園内ではハンガリー固有の動物も飼育されており、建築美と自然が調和する唯一無二のスポットだ。締めくくりには、ゲッレールト温泉で散策の疲れを癒やしたい。館内はモザイクタイルやステンドグラスに彩られ、中央の温泉プールには列柱とアーチが美しく配置され、まるで宮殿のような雰囲気が広がる。
市内中心部を巡り、最後にゲッレールト地区へ向かうルートなら、効率よくアール・ヌーヴォー建築を堪能できる。ブダペストの街並みを彩る芸術を、ゆったりと楽しみたい。
長い歴史のなかで多様な宗教の影響を受けてきた街、ブダペスト。ハンガリー王国成立後、キリスト教が国の礎となり多くの壮麗な教会が建てられたが、16世紀のオスマン帝国支配下では一部の教会がモスクに改修され、時代の変遷とともに宗教のあり方も変化してきた。現在、ブダペストではカトリック、プロテスタント、ユダヤ教が共存し、人びとの祈りが街の随所に息づいている。
聖イシュトヴァーン大聖堂(St. Stephen’s Basilica)は必ず訪れたいスポット。ハンガリー初代国王イシュトヴァーン1世を祀り、内部には彼の遺物「聖なる右手」が安置されている。
マーチャーシュ教会(Matthias Church)も見逃せない。ブダ城の麓に佇むゴシック様式のこの教会は、歴代ハンガリー王の戴冠式が行われた由緒ある場所。かつてモスクとして使用された過去をもち、歴史の波に翻弄されながらも、信仰の場としての役割を守りつづけてきた。
教会を巡りながら、人びとの祈りの軌跡をたどる旅へ。 信仰の歴史とともに、ブダペストの街に息づく祈りを感じてみたい。
中央ヨーロッパの交差点に位置するハンガリーは、西と東の文化の影響を大きく受けながら、歴史のなかで多くの文化的潮流を取り入れてきた。王宮の丘内に位置するハンガリー国立美術館(Magyar Nemzeti Galéria)は、そんな歴史を網羅する貴重なコレクションを収蔵。とくに、19世紀から20世紀にかけてパリをはじめとする西欧で活躍したハンガリー出身の芸術家の作品も多く展示されており、西洋美術の影響を受けながらも、東欧特有の情緒や民族的な表現が融合する場面に触れることができる。
なかでも、ハンガリー美術の代表的な作品として知られるムンカーチ・ミハーイの『ピラトの前のキリスト』(1881年)は、西欧のリアリズムとロマン主義の要素を取り入れた壮大な宗教画。一方、ポール・ラースローの『昼』(1870年)は、ハンガリー独特の色彩感覚が際立ち、東欧美術の個性が存分に表現されている。
この美術館では、ハンガリー美術がたどってきた道のりを感じながら、西と東が交差する瞬間を肌で体感できる。歴史と文化の融合が生み出す独自の芸術を、じっくりと味わいたい。
ムンカーチ・ミハーイによる『ピラトの前のキリスト』(1881年)
ドラマチックな構図と劇的な光の演出は、西欧のリアリズムとロマン主義の影響を感じさせる。
ドナウ川の西岸にそびえる王宮の丘(Buda Castle District)は、13世紀に築かれたブダ城を中心に広がる歴史地区で、街のなかでもとくに美しいエリア。丘全体がユネスコの世界文化遺産に指定されていて、石畳の通りや歴史ある建築など、中世の雰囲気が色濃く残るこの場所はまさにブダペストの歴史の象徴だ。
散策の途中に立ち寄りたいのが、ブダペスト最古のカフェ〈ルスヴルム(Ruszwurm)〉。1827年創業の老舗パティスリーで、クラシックな雰囲気のなかいただくクリームたっぷりのケーキ、クレメシュ(Ruswurm Kremes)は絶品だ。
王宮の丘では、19世紀末から20世紀初頭にハンガリーの建築家ハウスマン・アラヨシュによって設計・拡張されたブダ城の姿を再現する国家プロジェクト「ハウスマン・プログラム」が進行中。歴史を蘇らせる壮大な計画に思いを馳せながら、優雅な街歩きを楽しみたい。
ブダペスト中央市場(Central Market Hall)は、地元の人びとの暮らしを垣間見ながら、ハンガリーの食文化を体験できる場所。1897年に建てられた壮麗な建物の中には、新鮮な食材や伝統的なグルメが所狭しと並び、賑やかな雰囲気が広がる。
市場に来たら、まずはグーラッシュ(goulash)を味わいたい。中欧の伝統的なパプリカの風味が効いた牛肉のスープで、ハンガリー流はさらっとした仕上がりが主流。滋味深く、体を芯から温めてくれるソウルフードだ。グーラッシュと一緒に、パプリカソーセージも。ピリッとした辛味とスモーキーな香りが絶妙で、一口食べればクセになる。食後には、ハンガリー産のハチミツをチェック。香り高くコクがあり、お土産にもぴったりの逸品。地元の人びとの買い物風景を眺めながら、市場の活気と味覚を存分に楽しんでみて。
廃墟となった建物を活用したブダペストの個性派バーは、独特の雰囲気とアートな空間が魅力。
ブダペストで最初にオープンした廃墟バーの〈シンプラ・ケルト(Szimpla Kert)〉は、広々とした空間にアートな装飾が施された人気店。近年は観光客向けの要素が強まり、ナイトライフの入り口として最適なスポットだ。
ローカルな雰囲気を楽しむなら、〈チェンデシュ・レッテレム – ヴィンテージバー&カフェ(Csendes Létterem – Vintage Bar & Café)〉へ。 年月を感じさせるインテリアに囲まれ、気取らない地元の人びとが集う。リーズナブルなドリンクメニューが揃い、肩肘張らずに過ごせるのもポイント。落ち着いた空間を好むなら、〈カフェ・ジヴァーゴ(Café Zsivágó)〉がおすすめ。控えめな照明とアンティーク家具が織りなすクラシカルな雰囲気は、廃墟バーのなかでも群を抜くセンスのよさを感じさせる。静かに過ごしたい人にすすめたい、隠れ家的な一軒。
19世紀に建てられたハンガリー国立歌劇場(Magyar Állami Operaház)は、壮麗なネオルネサンス様式の建築で知られ、豪華なシャンデリアや金色に輝く装飾が観客を魅了する。
音響の素晴らしさにも定評があり、手頃な価格で本格的な舞台を楽しめるのも魅力のひとつ。とくにハンガリーの作曲家による名作は必見。バルトークのバレエ『かかし王子』やオペラ『青ひげ公の城』、コダーイの『ハーリ・ヤーノシュ』など、民族色豊かな作品が並ぶ。
事前にチケットを予約し、ドレスアップして劇場へ。ハンガリーならではのオペラを楽しむもよし、クラシックな名作に浸るもよし。旅の特別な思い出づくりには欠かせない。
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市内にはクラシックな建築が立ち並ぶ一方、個性的なショップやデザイナーズブランドも多く、ショッピングもまたブダペストならではの楽しみ方のひとつ。
まず訪れたいのが、ブダペスト中央市場。ここではハンガリーの伝統工芸であるレースを手に入れたい。繊細な模様が特徴の手作りレースは、テーブルクロスや装飾品としても美しく、お土産にも最適だ。
伝統工芸を堪能したあとは、〈レトロック・デザイナー・ヴィンテージ・ストア(Retrock Designer Vintage Store)〉へ。広い店内には、ヴィンテージやリメイクアイテム、ハンガリーの新進気鋭のデザイナーによる斬新なファッションアイテムがずらりと並ぶ。定期的にポップアップイベントも開催され、旅先ならではの偶然の出会いに期待大。伝統とモダンが交差するブダペストのショッピングシーンで、旅の思い出を持ち帰ろう。
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ブダペストもまた、気ままな寄り道がよく似合う街。ドナウ川沿いをのんびり歩いて、美しい建物に見とれたり、ふと見つけたカフェで一休みしたり。マーケットを覗いて、地元の人びとと挨拶を交わしてみるのも楽しいものです。夜には、ライトアップされたブダ城や鎖橋を眺めながら、一日の終わりをゆったりと味わうのもおすすめ。気の向くままに歩いてみれば、きっとブダペストの新たな魅力に出会えるはずです。