「シュルレアリスム100年映画祭」が10月5日から渋谷・ユーロスペースを皮切りに全国の映画館にて開催中です。
1924年10月、フランスの文学者であるアンドレ・ブルトンが「シュルレアリスム宣言」を発表し、20世紀最大の芸術運動が始まってから今年で100年。
第一次世界大戦のさなか、戦争への抵抗や虚無感から芸術運動「ダダ」が始まり、西洋近代の科学、芸術、社会などあらゆる既成の価値観を否定、破壊し、瞬く間に世界の都市へと広がりました。その主要メンバーであったトリスタン・ツァラは、パリで活躍していた詩人アンドレ・ブルトンともに「パリ・ダダ」を展開しましたが、のちにツァラとブルトンの対立が深まり、1924年にブルトン一派はダダから離脱して「シュルレアリスム宣言」をします。ダダイズムを発端としながらも、それを凌駕しようと試みる芸術運動が「シュルレアリスム」でした。
大戦間期に始まったこの運動は、無意識の世界の探求と表出によって人間精神の解放を目指し、パリやスペイン、プラハなどを拠点に文学・詩・絵画・思想・写真・音楽など、さまざまな分野で展開されました。
今回の「シュルレアリスム100年映画祭」では、映画をとおしてそんなシュルレアリスムの世界を覗くことができます。1928年製作の歴史上初のシュルレアリスム映画作品や、代表的なシュルレアリスム作家らを追うドキュメンタリー作品など、日本初公開の6作を含む全10作品7プログラムが上映されます。
ハンス・リヒター監督/1947年/アメリカ
ジョーは家賃の支払いに悩む平凡な男。ある日、人の頭の中を見ることができる能力をもっていることに気づいた彼は、ビジネスを立ち上げ、欲求不満や不安を抱える人々にオーダーメイドの夢を売りはじめるが……。本編に登場する7つの夢は、マックス・エルンスト、フェルナン・レジェ、マン・レイ、マルセル・デュシャン、アレクサンダー・カルダー、ハンス・リヒターといったシュルレアリスムや前衛芸術のオールスターがそれぞれ原案を創作。夢のパートの音楽には、ジョン・ケージやポール・ボウルズも参加。若き日のスタンリー・キューブリックのエキストラ出演も。
ルイス・ブニュエル監督/1962年/メキシコ
ある夜、ブルジョアの邸宅で晩餐会が催される。会がはじまると、使用人たちはだんだんと姿を消し、執事一人が残される。晩餐を終えた招待客は、客間に腰を落ち着かせるが、夜が明けても全員が帰る方法を忘れたかのように何故か外に出ることができなくなってしまい、ついには食料も底をつき……。人間の基本的な欲求が満たされなくなるにつれ、彼らの社会性は急速に崩壊していく。解読不能な夢のようなイメージを次々と登場させブラックユーモアたっぷりに描いた本作は、ブニュエルのメキシコ時代の最高傑作と称される。第15回カンヌ国際映画祭国際映画批評家連盟賞受賞。
ピーター・シャモーニ監督/1991年/ドイツ *日本初公開
シュルレアリスム絵画の理論的支柱であり、フロッタージュやデカルコマニーといったオートマティスムの技法を駆使して多様な作品を創造した、変幻自在の画家・彫刻家マックス・エルンスト。ドイツ出身の彼は第一次大戦への出征、レオノーラ・キャリトン、ペギー・グッゲンハイムらとの恋愛や別れ、第二次大戦時の迫害と亡命、ブルトンとの確執など波乱の人生を送った。ベルリン国際映画祭銀熊賞受賞監督ピーター・シャモーニが、エルンストのインタビューや創作活動の貴重な映像、彼と30年連れ添ったドロテア・タニングや周囲の人々の証言などによって、その革命的な精神や創造的な思考に迫る。
ファブリス・マゼ監督/2023年/フランス *日本初公開
シュルレアリスムを代表する画家の一人、ルネ・マグリット。「言葉とイメージ」の関係を探求し、絵画に哲学的要素を取り入れた彼の表現は、従来の美術の範疇にとどまらず、ポップアートやコンセプチュアルアート、広告デザイン、思想家などにも大きな影響を与えた。本作は、ベルギーでの幼少期から、デ・キリコの絵との出会い、パリのシュルレアリストたちとの交流、ブリュッセルでの国際的成功、第二次大戦期の苦境と戦後の新たな活動まで、マグリットの映像と作品もふんだんに使ってその足跡を追い、作風を移行させながら独自の世界を築いた彼の知られざる複雑な個性に迫る。
ジュリアン・フェランドゥ監督/2015年/フランス・チェコ *日本初公開
チェコの近代絵画、シュルレアリスムを牽引したトワイヤン。本名はマリー・チェルミーノヴァ。トワイヤンという通称は、仏語で「市民」という意味の単語”citoyen”に由来する。人一倍の好奇心と探究心を持つ彼女は、大戦や共産党政権の台頭など激動の時代の中、芸術活動に取り組み、独自の表現方法を切り拓いた。サーカスや遊園地など娯楽のスケッチから始まる画家の道、画家・詩人のインジフ・シュティルスキーとの協業、「人工主義」の標榜、エロティシズムへの傾倒、シュルレアリスムへの接近、ブルトンやエリュアールらとの親交など、彼女の人生と表現について、丹念に掘り下げていく。
『幕間』
ルネ・クレール監督/1924年/フランス
フランシス・ピカビアのバレエ『本日休演』の幕間に上映するためにつくられた、名匠ルネ・クレールによるダダイズムの短編映画。音楽は20世紀の音楽に多大な影響を与えたエリック・サティが担当。ピカビア、サティに加えて、マン・レイやデュシャンも出演。
『貝殻と僧侶』
ジェルメーヌ・デュラック監督/1928年/フランス
歴史上初めてのシュルレアリスム映画。性的な欲望に取りつかれていく僧侶の妄想を幻想的に描いた作品。シュルレアリスムの詩人であり俳優としても知られるアントナン・アルトーの脚本をジェルメーヌ・デュラックが演出。ダダからシュルレアリスムに至る過渡期の2本を1プログラムで上映。
『アンドレ・ブルトン あらゆるものにもかかわらず』
ファブリス・マゼ監督/2003年/フランス *日本初公開
シュルレアリスムを主導した詩人・作家であるアンドレ・ブルトンの活動の軌跡を追ったドキュメンタリー『アンドレ・ブルトン あらゆるものにもかかわらず』。
『野性の目』
ファブリス・マゼ監督/2003年/フランス *日本初公開
彼が生涯をかけて集めたコレクションで満たされた伝説のアトリエの映像と彼の肉声によって、ブルトンが追い求めていたものに迫る『野性の目』。
『2003年3月31日、オテル・ドルーオ』
ファブリス・マゼ監督/2003年/フランス *日本初公開
パリのオークションハウス「オテル・ドルーオ」にて、2003年に開催されたブルトンのコレクション展の開幕直前に展示室を撮影し、コレクション散逸前の全貌を記録した『2003年3月31日、オテル・ドルーオ』。ブルトンの思考、思想を深掘りする3つのドキュメンタリーを集めたプログラム。
シュルレアリスムの深遠なる世界を紐解く、全10作7プログラムのラインナップ。日本初公開の作品も上映されるこの機会に、100年前から現在まで国境を越えて生きつづけるシュルレアリスムの世界に触れてみてください。
20世紀最大の芸術運動 シュルレアリスムの深遠なる世界へようこそ
『シュルレアリスム100年映画祭』
日時
場所
主催・配給
宣伝
映画祭公式ページ
渋谷ユーロスペース