マサイの民が「ンガイエ・ンガイ(神の家)」と呼ぶタンザニアのキリマンジャロ。地元の人にとって、信仰の対象であり、観光客を呼ぶ経済の拠り所でもあるアフリカ最高峰を、旅人の視点で見つめる。
「準備編」「登山編」「下山編」の3本立てで、キリマンジャロに登るまでをお届け。
「準備編」では、キリマンジャロの概要や歴史とともに、アクセス方法、登山ツアーの探し方、登山に必要となる装備などを紹介する。
Photo & Text : Mikito Morikawa
Index
3 min read
「頂上近くに、ひからびて凍りついた一頭の豹の死体がある。そんな高いところまで豹が何を求めてやってきたのか、だれも説明したものはいない。」冒頭箇所のそんな表現ではじまる『キリマンジャロの雪』。1936年、米国の文豪アーネスト・ヘミングウェイがこの短編小説を執筆したことにより、タンザニアにあるこの山は欧米で一躍有名になった。スワヒリ語で「キリマ」は「山」、「ンジャロ」は「輝ける」を意味し、マサイの人びとには「ンガイエ・ンガイ(神の家)」と呼ばれている。
キリマンジャロ登山の拠点となる町・モシにある〈Hotel Maridadi〉に掲げられていた絵画。山の麓にはアンボセリ国立公園が広がり、ライオンやゾウなどの野生動物が生息している。
西からシラ峰(3962m)、キボ峰(5895m) 、マウエンジ峰(5149m)という3つの火山からなるアフリカ最高峰のキリマンジャロは、約75万年前(諸説あり)に火山活動で大地が隆起してできたといわれている。標高が上がって植生の限界を超えると砂礫や岩石が広がり、巨大な岩があちこちに転がっている。最高峰のキボ峰は休火山であるため、再び噴火する可能性があるという。
初登頂を果たしたのはドイツ人だった。19世紀後半に地質学者のハンス・メイヤーが登頂を試み、3度目の挑戦で成功。その後、1973年に山域の一部が国立公園として指定され、1987年に世界自然遺産に登録された後、登山がだんだん広まっていく。標高6000m近くあるが危険な箇所はあまりなく、特別な登山技術がなくても登頂が可能とされ、比較的登りやすい山といわれる。
登山によいのは、乾季に当たる12月後半から2月、そして7月から9月。逆に、雨季になる3月中旬から6月、10月から12月前半は登山の難易度が上がる。
キリマンジャロ登山の拠点となるのはタンザニア北東部のモシ。人口16万人ほどの街で、主な産業はコーヒーに代表されるキリマンジャロ山麓の農業や観光業。標高が800mほどで気候が涼しいため、19世紀末から20世紀初頭は西洋人が多く暮らしてきたこともありキリスト教徒が多い。モシへのアクセスは、キリマンジャロ国際空港からは車で約1時間。隣国ケニアの首都ナイロビから向かう場合は車で約5時間かかる。
キリマンジャロ国際空港は瀟洒で小さな空港だが、国際的な観光地だけあって大型飛行機も多く飛来する。
①ビザ申請
キリマンジャロを目指す場合、タンザニア入国に際して日本人はビザが必要となる。オンラインでのビザ申請が可能で、少なくとも2週間ぐらいの余裕をみておきたい。到着してからアライバルビザを申請する観光客もいるが、行列ができるので事前申請がおすすめ。
②予防接種
タンザニアだけに滞在する場合、必要となる予防接種はない。黄熱病が発生している国(たとえばケニア、カメルーンなど)に12時間以上滞在してからタンザニアへ入国する場合、黄熱予防接種証明書の提示が必要。また、キリマンジャロは高原地帯なのでマラリアの心配はないといわれるが、可能性がゼロではない。
①ガイドの手配
キリマンジャロ登山には現地ガイドの同行が義務付けられており、ほとんどの場合、ガイド、料理人、ポーターが同行するツアーに参加することになる。1日あたり70ドルの入園料、50ドルのキャンプ利用料がかかり(2024年時点)、たいていは旅行代理店経由で支払う。
私はMJ Safaris & Adventureのグループツアーに申し込んだが、たまたま申込者は私だけで自分のペースで歩けたのはありがたかった。旅行代理店のスタッフやガイドも対応が丁寧かつ、親切だったので安心して登山ができた。
②高山病対策
キリマンジャロ登頂を阻む一番大きな要因は高山病。その対策としてダイアモックスという薬を処方してもらえるので、医者と相談のうえ持参するのがよい。状況が許すなら、3000m以上の山に登って高度順応をしておくと高山病対策になる。
③登山装備
熱帯雨林地帯は夏の登山服、標高3000mほどのエリアでは春秋、それより上は冬登山の装いを想定していくとよい。服のレイヤーを調整して気温の差に柔軟に対応できるよう準備しておこう。
私の場合、旅行代理店が用意してくれた大きめのボストンバッグに寝袋、着替えなどを詰め、それをポーターが運んでくれた。それ以外の山行に必要な防寒着、水分、行動食などはバックパックに詰めて自分で背負った。パスポートや現金などの貴重品、登山に不要な荷物はモシのホテルに預けられるので、モシまではスーツケースで行く人も。旅行代理店で装備をレンタルすることもできるが、靴、バックパック、寝袋などは自分で用意したい。
✅アンダーウェア
私は7日間のツアーで3セット用意した。
✅日よけアイテム
日差しが強いので、サングラス、帽子、日焼け止め、リップクリームは必須。
✅レインウェア
乾季でも雨が降ることはあるので、上下のレインウェアが必要。
✅防寒具
寒さ対策として、上下のダウンウェアと手袋を持っていった。手袋はウールのインナーグローブに加え、冬山用のアウターグローブもあるとよい。寝袋は旅行代理店でレンタルするものだと寒いこともあるので、冬山用のダウンの寝袋があると安心だ。
✅靴
靴は防水のものを持参したい。ハイカットかローカットかは好みにより分かれる。基本的にアイゼンは使わないので、ローカットを選ぶ人も。上下移動を何度も繰り返すので、膝などを守るためにトレッキングポールがあると安心。
✅衛生用品
基本的にお風呂に入れないので、使い捨ての大判の体拭きタオルがあると役立つ。また、水の使用も限られるので、ウェットティッシュを重宝した。さらに、トイレ環境もさまざまな状況がありうるので、トイレットペーパーやポケットティッシュも十分な量を持参したい。
✅ヘッドライト
登頂する日は夜中に出発するツアーがほとんどなので、ヘッドライトやランタン、さらに予備の電池も必要。夜中に登頂アタックを開始する場合は暗闇を6時間ほど歩くことになるので、出発前に新しい電池をヘッドライトに装填しておきたい。
標高が高いわりに歩きやすいといわれるキリマンジャロだが、頂上は6000m近くになるため万全の準備をして臨もう。
編集者
森川幹人(もりかわ・みきと)
『TRANSIT』副編集長を務めたのち、『週刊ダイヤモンド』で委嘱記者、デジタルエージェンシーのインフォバーンでコンテンツディレクターを務める。現在はロンドン芸術大学セントラル・セント・マーチンズでイノベーション・マネジメントを学びながら、長期休みを利用して欧州を中心に各地を訪問。趣味のサルサダンス歴は早20年。
『TRANSIT』副編集長を務めたのち、『週刊ダイヤモンド』で委嘱記者、デジタルエージェンシーのインフォバーンでコンテンツディレクターを務める。現在はロンドン芸術大学セントラル・セント・マーチンズでイノベーション・マネジメントを学びながら、長期休みを利用して欧州を中心に各地を訪問。趣味のサルサダンス歴は早20年。