#映画とひととき世界旅行
ガザ編

映画とひととき世界旅行

#映画とひととき世界旅行
ガザ編

People :藤本高之

TRAVEL&WATCH

2024.09.27

2 min read

映画で世界を旅しよう。

そのエリアに造詣の深い方々を案内人とし、作品を教えていただく連載。

パレスチナ・ガザ地区を拠点とする政治・軍事組織ハマスがイスラエルに越境攻撃をしかけた2023年10月7日から、イスラエル軍によるガザへの空爆、そして地上侵攻は民間を巻き込み終息の目処がたっていません。パレスチナ・ガザを知るための3作品をイスラーム映画祭の主宰者である藤本高之さんに選んでいただきました。

text : TAKAYUKI FUJIMOTO

『ぼくたちは見た ガザ・サムニ家の子どもたち』 

古居みずえ監督

©️古居みずえ

©️古居みずえ

初めて「パレスチナ」を意識して映画を観たのは、古居みずえ監督の『ガーダ パレスチナの詩』でした。ガザ南部にあるハーンユーニスの難民キャンプで生まれ育った一人のパレスチナ女性ガーダの、結婚や出産までも含めた12年間を追ったドキュメンタリー映画です。
 
本作は『ガーダ』につづく作品で、古居監督は2007年にイスラエルがガザを封鎖して以降、2008〜09年にかけて初めてイスラエルがガザに大規模攻撃を仕掛けた直後に現地へ入り、ガザ市ゼイトゥーン地区に住むサムニ家という一家の子どもたちを取材しています。40歳のときに大病を克服したよろこびからジャーナリストへ転身した古居監督の視線は徹頭徹尾、女性と子どもに向けられており、本作では、家族の凄惨な死を見てしまった子どもたちが、トラウマを絵で表現する様子が収められています。唯一の救いはパレスチナ社会は基本的に大家族のため、親兄弟姉妹を亡くしても親族の誰かが面倒をみてくれて、子どもたちがストリートチルドレンにはなりにくいことです。
 
しかし、2023年の10月7日以降にガザに関心をもった方で、この2008年に起きた大規模攻撃について知っている人はどれだけいるでしょう。もしもこのときに世界中で今ほどの声があがっていれば、今回の事態は避けられたかもしれません。

『ぼくたちは見た ガザ・サムニ家の子どもたち』
DVD 3000円
購入はこちらから

『ガザ・サーフ・クラブ』 

フィリップ・グナート、ミッキー・ヤミネ監督

© Niclas Reed, Middleton Little Bridge Pictures

うっすら青空もうかがえる、けれどどんよりと曇った空の下、若者らしき男性2人がサーフボードを抱えて海の向こうを眺めている。そして遠くにはイスラームの礼拝所(モスク)の影……。
 
『GAZA SURF CLUB』という、およそ「ガザ」という言葉からは想像のつかないタイトルとビジュアルに惹かれ、2020年に日本で初めて公開しました(2024年1月に正式に劇場一般公開)。何かに対し一概に抱かれているイメージを覆してくれる映画ほど、グッとくるものはありません。撮影時期は2014〜15年。2014年の夏にもイスラエルはガザに侵攻し、2000人以上の人びとが亡くなっていますが、その様子は描かれていません。
 
本作が描くのは、イスラエルによる封鎖がつづきインフラは壊滅状態、地区内外を自由に行き来することもできずもはや「天井のない監獄」と呼ばれるガザで、それでもサーフィンを愛する3人の登場人物の日常です。希望のない日々を嘆きながらも屈託なく未来への展望や夢を語る3人の姿に、ニュースのなかのガザしか知らない我々は束の間ホッとしますが、封鎖の影響で海は汚染され、サーフィンはおろか本当は海に入ることすらガザでは禁じられています。それでも彼らやガザの人びとは海に向かいます。海しか自由を感じられる場所がないからです。映画のピークは、子どもの頃は自由にサーフィンができたのに、大人になるにつれ社会の伝統的な価値観から人前で海に入ることが難しくなった10代の少女が久々に海に入るシーンです。でも、そんな唯一自由を感じられる海でさえ、今はもうないのでしょう。

『ガザを飛ぶブタ』 

シルヴァン・エスティバル監督

パレスチナがテーマであれば、やはりドキュメンタリー映画が多いとはいえ劇映画もこれまでそれなりにつくられ、なかにはヨルダン川西岸地区を舞台に日本でも劇場一般公開された『テルアビブ・オン・ファイア』のようなコメディ作品もあります。しかし、ガザが舞台となるとそもそも劇映画自体がほとんどなく(『ガザの美容室』ぐらい)、コメディはこれ1本しか思いつかないのが実情です。なので残念ながら日本で視聴することは適いませんが、ガザを舞台にした珍しいコメディ映画を最期に。
 
本作は2011年に東京国際映画祭で初上映され、イスラーム映画祭でも2度ほど上映し、いずれも満席となりました。パレスチナ人の漁師が、ある日海からイスラームでもユダヤ教でもタブーとされるブタを釣り上げてしまったことから始まる騒動を描いており、パレスチナ取材経験のあるフランス人ジャーナリストが監督を務めています。
 
設定からも察せられるとおりファンタジー要素の強い映画であり、2005年にイスラエルがガザから軍や入植地を撤退させたことなどの基本情報を知らないと、思わぬ誤解を招く危険性もある作品です。でも、突飛な宗教ネタから民族の融和を描く物語は、たとえ現実のガザを反映していない絵空事でも訴求力があり、昨今のガザの状況があまりにも酷いので、ラストはつい涙してしまいます。
 

Profile

藤本高之(ふじもと・たかゆき)

1972年生まれ。イスラーム映画祭主宰。2015年にイスラーム映画祭を個人で立ち上げ、東京や神戸の映画館でイスラーム圏の映画を上映している。

 

イスラーム映画祭

HP|http://islamicff.com/index.html

 

1972年生まれ。イスラーム映画祭主宰。2015年にイスラーム映画祭を個人で立ち上げ、東京や神戸の映画館でイスラーム圏の映画を上映している。

 

イスラーム映画祭

HP|http://islamicff.com/index.html

 

AD AD
AD

TRaNSIT STORE 購入する?

ABOUT
Photo by

Masumi Ishida

NEWSLETTERS 編集後記やイベント情報を定期的にお届け!