広大な草原、遊牧の暮らし、そして深い歴史をもつ国、モンゴル。日本とも古くからつながりがあり、最近では観光やビジネスの場面でも注目されています。でも、馬と草原の景色以外、ぼんやりとしたイメージしか浮かばないのが正直なところ。そこで、モンゴルにまつわる20のQ&Aを用意しました。これを読めば、モンゴルの輪郭がはっきりと浮かんでくるはず。
Text:TRANSIT
Index
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Q1/ウランバートルの緯度は?
Q2/モンゴルの面積は日本の約何倍?
Q3/モンゴル国の人口は?
Q4/モンゴル全土にいる羊の数は?
Q5/モンゴルの主要産業は?
Q6/モンゴルが社会主義政策をとりはじめたのはいつ?
Q7/モンゴルに世界遺産はいくつある?
Q8/モンゴルでもっとも使われている文字は?
Q9/モンゴルで「白い食べ物」とされるのは?
Q10/遊牧民は年に何回移動する?
Q11/モンゴルで「いい馬を持っている」という慣用句は、どんな意味?
Q12/モンゴル帝国の軍事組織「千戸制」は何を目的として導入された?
Q13/フビライ・ハーンが建設した都市で、現在の北京の原型とされるのは?
Q14/フビライ・ハーンが1271年に定めた国号は?
Q15/モンゴル相撲(ブフ)で、土俵の代わりに使われるのは?
Q16/モンゴル相撲「ブフ」の試合前に選手が行う儀式は?
Q17/モンゴルでシャーマンが復活しはじめたきっかけは?
Q18/どのようにしてシャーマンになる?
Q19/モンゴルでヒップホップが盛んになった文化的背景は?
Q20/モンゴル語がラップに向いている理由は?
① 東京と同じ
② 札幌と同じ
③ サハリンと同じ
正解は……③
ウランバートルの緯度は北緯47.92°で、ロシア・サハリン州の州都、ユジノ・サハリンスクの北緯46.95°とほぼ同じ。冬には気温が-30℃まで下がることも。
ウランバートル市内へ向かう、チンギスハーン国際空港からの道中。
© Chinneeb
① 2倍
② 4倍
③ 8倍
正解は……②
ブラジルやインドよりは小さいが、それでも日本の4倍もの面積をもつモンゴル。その広い土地を生かして、遊牧や鉄工業が栄えてきた。
© Linh Vien Thai
© Tengis Bilegsaikhan
① 東京と同じくらい
② 千葉と同じくらい
③ 静岡と同じくらい
正解は……③
人口は約350.5万人で、静岡県の約352万人と同じくらい。モンゴルの人口密度はなんと2人/ ㎢!(日本は340/ ㎢)。ただし人口の半分はウランバートルに集中しており、ウランバートル市内は深刻な交通渋滞の問題を抱えている。
現在のウランバートル市街。
© Alexkom000
① 約90万頭
② 約640万頭
③ 約3100万頭
正解は……③
モンゴル国家統計局(NSO)の2023年の統計によると、羊の数はおよそ3,100万頭前後とされ、人口の約3倍。羊以外を含む家畜全体の数は7,000万に上る。
© Peter Smith
① 金属鉱業と畜産
② 繊維産業と観光
③ 自動車製造
正解は……①
石炭や銅など豊富な地下資源が主産業で、レアアースの埋蔵地として国際的に注目されている。遊牧民が担う牧畜業も依然として重要な産業だ。
© ONEMOREPROD
① 1917年
② 1924年
③ 1949年
正解は……②
1917年に、レーニン率いるボリシェビキがロシア革命を起こし、世界初の社会主義国家であるロシア・ソビエト連邦社会主義共和国が誕生。1924年には、中国から独立するかたちでアジア最初の社会主義国になったのが、モンゴル人民共和国だった。第二次世界大戦後には世界に社会主義国が誕生する。1940年代には東欧が社会主義化、アジアでも、1948年に北朝鮮、1949年に中華人民共和国が社会主義体制ととった。モンゴルでは1990年代に民主主義運動がおこり、1992年に社会主義体制を放棄してモンゴル国と名乗るようになった。
社会主義時代に建てられたモンゴル国立大学。
© Sodbileg
① 4つ
② 8つ
③ 10つ
正解は……①
オルホン渓谷の文化的景観、アルタイ山脈の岩絵群、ウヴス・ヌール盆地、大山ブルカン・カルドゥンとその周辺の神聖な景観が世界遺産に登録されている。
① キリル文字
② モンゴル縦文字
③ アラビア文字
正解は……①
1940年代、旧ソ連の影響を受けてキリル文字を導入。現在のモンゴル国の公用文書や教育、メディアの多くがキリル文字で書かれている。一方で、伝統的な「モンゴル縦文字」も近年見直されており、学校教育などで復興の動きも進んでいる。
キリル文字。
© TRANSIT
モンゴル縦文字。
© TRANSIT
① 米
② 小麦
③ 乳製品
正解は……③
遊牧民はかつて食生活のほとんどを家畜で賄っており、ミルク、チーズ、ヨーグルトなどの乳製品を今も重要な栄養源としている。米はほとんど食べない。
モンゴル西部、遊牧民のゲルの中でふるまわれる伝統的な食事風景。
© Bfreeproductions
ホフホト北部の草原でふるまわれる、モンゴルの伝統的な茶菓。向かって右のボウルには揚げキビ入りのミルクティー、ピンクの魚形の器にはそのトッピング用の揚げキビ。手前には乾燥ヨーグルトも添えられている。
© Popolon
① 1回
② 4回
③ 12回
正解は……②
四季に合わせて家畜に適した場所へ移動するのが基本。2~3回だけの場合も。近年では、公共施設やスーパーがある街からは離れ過ぎない程度に移動する家庭が多い。
© Francisco Anzola
① タイミングがいい
② お金を持っている
③ センスがいい
正解は……①
タイミングよく何かいいところに出くわす人のこと。たとえば、モンゴルには客人に食事をふるまう習慣があり、たまたま食事中に訪れると「いい馬を持っている」人になる。
© Brücke-Osteuropa
① 税制改革
② 騎兵隊の整備と軍政統合
③ 地方分権の推進
正解は……②
千戸制とは、チンギス・ハーンが導入した十進法による軍事組織制度で、血縁を超えて兵士を編成することで部族間のしがらみを排除し、ハーンへの直接的な忠誠を確保した。軍と行政を一体化させることにより、強固な統制と高い機動力を可能にした点で、モンゴル帝国の軍事的成功を支える柱となった。
父子関係を結んだトオリル(左)を歓待するテムジン(右)。※テムジンはチンギス・ハーンの即位前の名。
① 西安
② 大都
③ 長安
正解は……②
フビライ・ハーンは、遊牧国家だったモンゴル帝国を定住型の世界帝国へと再編するため、「大都」を建設した。これは今日の北京市の原型であり、以後の中国王朝にも大きな影響を与えた。整然とした街路、宮殿や市場、役所が並ぶこの都市は、モンゴル的な移動の論理ではなく、漢的な定住の秩序を取り込んだ象徴的な都市だった。
現在の北京市内。
© Ermell
① 金
② 大元
③ 大都
正解は……②
1271年、チンギス・ハーンの孫であるフビライ・ハーンは、自らの支配を正統化し、中国全土を統治する王朝としての体裁を整えるため、「大元(だいげん)」という国号を定めた。これは、儒教の経典『易経』に由来する「元」の文字を用いることで、中国の伝統的な政治理念に基づく王朝であることを内外に示す意図があった。これによってモンゴル帝国の中国支配が本格化し、元朝としての歴史が始まる。
フビライの狩猟図(劉貫道『元世祖出猟図軸』より、国立故宮博物院蔵)。
至元通行寳鈔とその原版。上段左の欄にパスパ文字で「至元寳鈔(jˇi ’ŭen baw č‘aw)」と書かれている。
© PHGCOM
① 土で固めたリング
② 石を円形に並べた場所
③ とくに区切られていない平地
正解は……③
もともと草原で育まれた伝統なので、とくに囲いのない平らな地面で勝負する。勝ち負けは、相手の体の一部が地面についた時点で決まり、土俵の外に出たら負け、というようなルールはない。
©︎David Lienemann
① 水を飲む
② 鷹の舞
③ 弓を引く
正解は……②
両腕を広げ、鷹が大空を舞うように羽ばたく「鷹の舞」は、自然や祖先への敬意、相手への礼を込めた神聖な所作である。鷹は勇敢さと誇りの象徴とされ、舞うことで精神を整え、競技に臨む準備を整える。モンゴル相撲は単なる力比べではなく、伝統文化や精神性が息づく神聖な競技であり、この舞もその象徴のひとつである。
16世紀頃の絵画。ブフの様子が描かれている。
① 欧米のスピリチュアルブームの影響
② 精神的不調を抱える人びとの増加と自己癒やしの試み
③ チベット仏教の衰退
正解は……②
モンゴルでは、1990年代初頭の社会主義崩壊後、体制の変化により多くの人が精神的・身体的不調を抱えるようになった。とくに少数民族であるブリヤート人の間では、これを「シャーマンの先祖を継がなかったための祟り」と解釈し、新たにシャーマンとなることで自己を癒やす動きが広まった。この思考は首都ウランバートルにも広がり、2000年代以降、格差の拡大や都市生活への疲弊のなか、「偉大なシャーマンの先祖が憑依する“すごいシャーマン”」となることで自らの存在を肯定し、癒やそうとする人が増えている。
© Munkhbayar.B
① 自ら望んで修行を始める
② 社会的地位や血筋によって選ばれる
③ 病や悩みをきっかけに「なる運命」と告げられる
正解は……③
好き好んでなるものではない。多くの場合、発端は病気や仕事の悩みである。病院での治療やラマ僧によるお祓いに効果がなく、最後に訪れたシャーマンから「あなたはシャーマンになる運命だ」と告げられたとき、イニシエーションの扉が開かれる。チャナルと呼ばれる儀式が始まり、太鼓を叩きながら森の中を夜通し走ることになる。
ウランバートル近郊のチンゲルテイ山にあるオボー(祭壇)。
© Martin Vorel
儀式で使われる太鼓。
© Taylor Weidman/The Vanishing Cultures Project
① モンゴル語が英語に似ているから
② 遊牧民の伝統文化に韻を踏むスタイルが根いているから
③ アメリカから直接ヒップホップ文化が輸入されたから
正解は……②
モンゴルには、古くから伝統的に韻踏みの文化が深く根づいている。ことわざや慣用句に始まり、のりと詞や呪文、シャーマンの祈禱歌、吟遊詩人が歌い語る英雄叙事詩にいたるまですべて韻が踏まれている。
ラッパーのBIG Gee。モンゴルのラップ・ミュージックは民族楽器を取り入れることも多い。
© Al Jazeera English
① 母音が少なく、単語数が限られている
② ラップに適したテンポの一定した言語である
③ 子音を複数連結でき、リズムを刻みやすい
正解は……③
モンゴル語では、子音を三連結以上にできる。破裂音や摩擦音といった子音を二重、三重に重ねられるので、非常にリズミカルにラップをすることができる。さらにモンゴル語ラップでは、フランスのラップの影響か、リエゾン(単語を2つ連続して発音する方法)も採用されている。
ラッパーのジェニー。モンゴル初のプロの女性ラッパーでもある。
© multi.lectical