世界には、その土地の風土や信仰、人びとの熱気が織りなすユニークな「お祭り」が存在する。アジア、ヨーロッパ、アフリカ、アメリカ、オセアニアの伝統行事から現代社会が生み出したユニークなイベントまで、地球の隅々で繰り広げられるお祭りについて、月ごとに解説。
ここでは2026年の10月、11月、12月の世界の祝祭日をピックアップ。死者を思うお祭りや、暗闇に光を灯すような伝統行事が多いよう。 一年の締めくくりに向けて、世界のお祭りを楽しもう。
*本記事の内容は、掲載時点での参考情報です。正確な開催日程・場所・内容については、各お祭りや自治体の公式発表をご確認ください。
Text:Anna Hashimoto Edit:TRANSIT
10月のお祭り
🗓毎年10月頃
📍スペイン・マドリード
🔗参考リンク
マドリード中心街の大通りを、数千頭の羊が通過するお祭り。古くは北部の羊飼いたちが冬を前に牧草地を求めて南西部へ家畜とともに移動していたことを起源とする。一説によると、15世紀頃に移牧牧羊組合が市議会にかけあい、マドリードを通過する権利を得たことから始まっているそう。
現在では、あえて都市部のマドリードを通過することで、畜産移牧(トラシュマンシア)の文化を多くの人に周知し、保護する狙いがある。祭りの日には、糸紡ぎや毛織のワークショップ、チーズ試食会など牧畜に関連した体験イベントに参加したり、中世の時代にタイムスリップしたような民族音楽やダンスを見たりできる。
🗓2026年10月4日予定 *毎年10月第1日曜日
📍イタリア・ラツィオ州マリーノ
🔗参考リンク
イタリア中部のローマ郊外にあるマリーノで行われる、ブドウとワインを祝う伝統的な収穫祭。毎年10月第1日曜日を中心に、前後数日から1週間ほど開催される。地元ワインの試飲・販売、食文化の紹介をはじめ、中世・ルネサンス時代の衣装をまとったパレードなど歴史的な再現も行われる。
祭りのもっとも象徴的な瞬間は、ワインの噴水! 中心広場の噴水からワインが噴き出す。歴史的には、1925年にローマの詩人レオーネ・チプレッリ(Leone Ciprelli)が考案したとされている。一説によると、1571年の「レパントの海戦」でキリスト教連合軍が勝利したことを記念する宗教行事とも結びついているそう。
🗓2026年10月4日-10日予定 *毎年10月の第1日曜日から1週間ほど行われる
📍フィンランド・ヘルシンキ
🔗参考リンク
1743年からつづく、フィンランドでもっとも伝統のあるお祭りのひとつ。ヘルシンキの港のすぐそばのマーケット広場(Market Square)で、毎年10月初旬に開催されている。数十名の漁師が港に船を係留し、ニシンの加工品(塩漬け・酢漬け・燻製など)やバルト海の水産品、ほかにも黒パンやベリーのジャムなどがマーケットに並ぶ。食品を買うだけでなく、ニシン料理をその場で食べることもできる。もとは冬の食べ物を備蓄するために、秋に開催されていた市場。冷蔵庫がない時代、塩漬けのニシンが長期保存が効く大切な食料だったことが伝わってくる。
フィンランドでは、スウェーデン王国時代(中世末期以降)に農民や漁民が都市で収穫物を販売するよう定められ、市を開くなどして都市に暮らす人に安定して食料を供給できるよう仕組み化していった歴史がある。
🗓2026年10月11日-25日予定 *ネパール暦に合わせて毎年9月から10月に15日間ほど行う
📍ネパールやインドのダージリン地域、アッサム州やメガラヤ州、ブータン等
🔗参考リンク
約15日間続く、ネパール最大のヒンドゥー教のお祭り。女神ドゥルガーが水牛に姿を変えて悪神に勝ったことを祝う祭りであり、善が悪に勝ったことを象徴する日。雨期の終わりと農作物の収穫を祝う意味も含まれている。この日は、家を掃除し、身だしなみを整えることで、女神ドゥルガーを自宅に迎える。
日本のお正月のようなお祭りでもあり、家族や親族で集まり、ご馳走を食べたりプレゼントを贈り合ったりする習慣もある。祭りの間は、米粉ドーナツのSel roti(セルロティ)や山羊肉のカレー、ライスプディングなどを食べたり、凧揚げや竹製のブランコに乗ったりして楽しむ。
🗓毎年2月22日、10月22日予定
📍エジプト・アブ・シンベル
🔗参考リンク
世界遺産「アブ・シンベル神殿」で年に2回催される太陽祭。2月22日と10月22日に朝日がまっすぐ岩窟神殿に差し込み、神殿の正面より奥まった「至聖所」に佇む神々の像を照らす。太陽神のラー、神格化されたラムセス2世、守護神アメン、闇の神プタハの4体の像が並び、闇の神だけは光が当たらないよう設計されている。その瞬間を一目見ようと、多くの人が訪れる。
この神殿は紀元前1260年頃に建設されており、当時から豊かな暦の知識や建築技術があったことがうかがえる。アブ・シンベル神殿を含むヌビア遺跡群は、1960年代にナイル川沿いの巨大ダム建設計画によって水没する危機に直面していたが、ユネスコが各国に支援を求めて、移築に成功した。
🗓毎年10月31日
📍アイルランド、世界各地
🔗参考リンク
いまや世界各国で開催されるようになったハロウィンだが、起源のひとつは古代アイルランドのケルト人が行っていた「サウィン祭」にある。サウィンはアイルランド語で「夏の終わり」を意味していて、このお祭りは約2000年前から、収穫期の終わりと冬の始まりを祝う収穫祭だった。古代、サウィン祭の時期になると、この世とあの世を隔てる境界が曖昧になり、死者の魂が墓からよみがえって、さまよいながら生家に帰ると信じられていた。幽霊や悪魔の姿をした死者が家に帰ってきたときに機嫌を損ねないように、人びとは食べ物や飲み物を差し出し、かがり火や仮装で悪霊から身を守ったという。これが、子どもたちが仮装してお菓子を要求する「トリック・オア・トリート」や、カボチャなどをくり抜いた灯籠の「ジャック・オー・ランタン」などにも結びついている。
現在のアイルランドでは、仮装はもちろん、ドライフルーツの入った伝統的なケーキ「バーンブラック」を食べる。ケーキには、コインや指輪などのアイテムが入っており、出てきたものによって運勢を占う。
🗓毎年10月から11月(ヒンドゥー暦のカルティク月)の数日間
📍インドのラジャスタン州プシュカル
🔗参考リンク
砂漠地帯のラジャスタンの町、プシュカルで行われる世界最大規模のラクダ市。鮮やかな布やビーズなどで装飾されたラクダが1万頭以上集まるほか、牛・馬・羊などの家畜の売買をはじめ、ラクダのダンスやパレード、レースや毛刈りのテクニックを競うコンテストなどもある。プシュカルはヒンドゥー教の創造神ブラフマーを祀る数少ない聖地であり、ラクダ祭りが行われる同じ時期の満月の日には多くの巡礼者がプシュカル湖で沐浴を行い、身を清める。
祭りの期間、町は巡礼者、民族音楽家や民族舞踊家、家畜商人、旅行客などさまざまな人で溢れかえる。人間の口髭の長さを競うコンテストも名物。長さだけでなく、形やデザインも審査対象なんだとか。世俗的な家畜市と、厳粛な宗教的儀式が同時に存在するお祭り。
11月のお祭り
🗓毎年11月1日
📍グアテマラのサンティアゴ・サカテペケス、スンパンゴ
🔗参考リンク
11月1日にグアテマラのサンティアゴ・サカテペケスやスンパンゴで行われる凧揚げの祭り。マヤの精神世界に根ざしているとされ、空に浮かぶ凧は生者と死者の魂をつなぐとも考えられている。凧は円形でピンクや赤、黄色など鮮やかな色で装飾され、大きいもので直径10m以上のものもある。凧揚げや凧制作を通して家族や地域コミュニティの結束が強くなるという社会的な役割も果たしている。
たとえばサンティアゴ・サカテペケスでは家族で墓地に集まり、凧を揚げることによって、故人への思いや愛、郷愁のメッセージを空に届ける。2024年にはユネスコの無形文化遺産に指定されている。
🗓毎年11月1日-2日 *前後の10月31日から11月3日頃まで死者の日の準備やイベントが行われている場所もある
📍メキシコ各地 *オアハカ、グアナファト、ミチョアカン、ミスキック、チアパス、メキシコシティなどが盛ん
🔗参考リンク
毎年11月1日、2日をメインにその前後で祝われる、死者のための伝統行事。この世と霊界をつなぐ通路が開かれ、亡くなった人たちが再び会いに来る日とされており、故人が迷わず帰って来られるよう故人の写真や好物、キャンドル、マリーゴールドやケイトウの花などを自宅の祭壇や墓地に供えて迎える。執り行われる儀式が満足いくものかによって、死者は家族に繁栄も不幸ももたらすとされていて、準備には細心の注意が払われる。
死者の日はメキシコ先住民の生活文化と先コロンブス時代の宗教儀式やカトリックの祝祭などが融合していて、メキシコ人の主食であるトウモロコシの収穫サイクルが完了する時期でもあることから、農暦とも呼応する。2008年にユネスコの無形文化遺産に登録された。
🗓2026年11月6日-11日予定 *毎年10月下旬から11月頃、5、6日間程度行われる
📍インド *ネパールでは「ティハール」という名前で祝われる
🔗参考リンク
ヒンドゥー教徒にとって、一年のうちでもっとも大事なお祭りのひとつ。光が闇に、善が悪に、知識が無知に勝利することを象徴する「光の祭り」として国中で祝われる。叙事詩『ラーマーヤナ』の物語のなかで、ラーマ王子が悪王ラーヴァナを退けたことに由来しているという説もある。
家や町中がイルミネーションで照らされ、建物の入口や玄関などにはカラフルな模様「ランゴリ」が描かれる。また、礼拝をしたり、甘いお菓子などの贈り合いをしたり、花火をあげたり、爆竹を鳴らしたりする。お祭りの間は毎日違う行事や儀式が執り行われる。たとえば初日は財運祈願の日で、金、銀、台所用品などを購入して、幸運を祈る。3日目がお祭りのメインの日で、ガネーシャ神とラクシュミ女神の像を置いてお祈りをする。マントラを唱え、お花、菓子、お金、灯籠などを捧げて祝福をする。
🗓2026年11月24日-25日予定 *毎年10月から11月頃(旧暦12月)の満月の夜に行われる
📍タイ各地 *チェンマイ、バンコク、スコータイが盛ん
🔗参考リンク
バナナの葉でつくった小舟「クラトン」を池や川に浮かべる、灯籠流しのようなお祭り。クラトンは家族や自分でつくったりお店で買ったりして準備する。日没になると水辺に行き、クラトンに載せたキャンドルや線香に火をつけて水に放つ。民間伝承では、灯籠が視界から消えるまで灯っていれば、翌年幸運がもたらされるといわれている。
とくにチェンマイのお祭りは、灯籠流しだけでなく空にも天灯(コムローイ)を飛ばすので見応えたっぷり。川の水位がもっとも上がる11月の満月の日に行うため、毎年開催日が変わる。水の女神プラ・メー・コンカーに、その年の米の収穫へ感謝し、川を汚してしまったことを謝罪し、さらに自らの罪の汚れやネガティブな感情を水に流す。タイ土着の自然信仰、インド由来のヒンドゥー教、それに仏教が融合したお祭りでもある。
🗓毎年11月中旬から下旬頃
📍タイのスリン県
🔗参考リンク
タイ東北部スリン県で行われる象のお祭り。タイ全土から200頭以上の象が集結して、象のパレードや、象と人との綱引き、サッカー、丸太運び、お絵描きなど、多彩なプログラムが行われる。見どころは「象の朝食」。数百メートルにおよぶ長いテーブルに大量の野菜や果物が置かれ、象が鼻を使って上手に食べる姿を見ることができる。
スリン県は、タイのなかでもとくに人と象の関わりが強い地域。タイの北東部からカンボジアにかけての丘陵に住むクイの民は、何世代にもわたって象使いとして象の調教を行ってきた。祭りは1960年に初めて開催されたのだが、ちょうど象で林業や農作業を行うことが減り、象使いが生計を立てることが難しくなった時代に当たる。象祭りを新たな観光資源とすることで、地域の象と人の文化を保護して継承している。
🗓11月中旬から12月頃
📍オランダ
🔗参考リンク
オランダ各地で行われる子ども向けの祝いごと。シンタクラースは、子どもや貧しい人たちを助けた「聖ニコラウス」に基づいていて、サンタクロースの起源とされている。11月中旬のシンタクラースの到着から始まり、12月5日のシンタクラースの誕生日前夜に「プレゼントの夜」があり、そこで子どもたちにプレゼントが配られる。
オランダでは、シンタクラースの期間中、子どもたちが自分の靴を暖炉やドアのそばに置く慣習がある。子どもたちは靴のなかに手紙や絵、シンタクラースが乗ってくる馬のためのニンジンなどを入れる。するとシンタクラースからチョコレートや小さなおもちゃなどが靴に届けられる。シンタクラースは伝統的に蒸気船でスペインからお供を連れてやって来るとされ、11月中旬に各地で開催される到着パレードはテレビで放映されるなど、盛り上がりを見せる。
12月のお祭り
🗓毎年12月5日頃
📍オーストリア
🔗参考リンク
12月5日頃に行われるアルプス地域の伝統行事で、「クランプス」という妖怪が街を練り歩くお祭り。毛皮や角の衣装、木製のお面などを身につけた大人が扮すクランプスが悪い子どもを戒める。クランプスと対になる存在が聖ニコラウスだ。クランプスが鎖とムチを持って悪い子どもの前に現れる一方で、聖ニコラウスはよい子たちにプレゼントを配る。
クランプスのパレードは、ザルツブルクやチロル州、オーストリア各地の小さな村などで行われていて、地域ごとの違いを楽しめる。クランプスが纏う毛皮は天然素材、お面は木製で手彫りが原則とされていて、量産ではなく木彫り職人によってつくられており、製作期間は数週間から数カ月ともいわれる。そのため手彫りのお面は一点もので、高価な民藝品として扱われることもある。
🗓毎年12月13日
📍スウェーデンなど北欧の国々
🔗参考リンク
一年でもっとも暗いとされる時期に、希望や光、あたたかさを感じるために行うお祭り。4世紀頃に殉教したとされる聖ルチアを祝うキリスト教の祭日でもあり、「ルチア」はラテン語で光を意味する。聖ルチアは迫害されたキリスト教徒に食べ物を届けた際、手にものを持ちながら足元を照らすため頭にロウソクの冠をつけたとされ、この様子を摸した「光の行列」が学校や職場、教会などさまざまな場所で行われる。
聖ルチア祭そのものは民間信仰や冬至の慣習とも結びつくとされるが、スウェーデンで現在の祝祭のかたちをとるようになったのは20世紀初頭のこと。ストックホルムの野外博物館「Skansen」が伝統を復興し、普及に貢献したという。